最近の出稼ぎ労働者事情

  • 投稿日:2006.02.21
    • 駐在員レポート

1月から2月にかけて中国では旧正月を迎えた。毎年この時期になると、故郷に帰省する出稼ぎ労働者や学生などが一斉に大移動を行う。国家発展改革委員会の予想によると、2006年の春節期間は延べ人数で20.42億人になるそうだ。

中国では、農民の年間純収入が都市部住民の年間可処分所得の3分の1以下という貧富の格差があり、そのため、多くの農民たちが都市部に出稼ぎにでている。今年1月の国務院の発表によれば中国全土の出稼ぎ労働者数は1億5000万人ともいわれ、また、国内の建設労働者の90%、炭鉱労働者の80%、都市部のサービス業労働者の50%を出稼ぎ労働者が占め、国内総生産の15~30%を生み出しているといわれる。

上海の出稼ぎ労働者事情

上海市統計局の調査によれば、上海市以外の地域から出稼ぎに来ている外来就業者数は2004年には375万人に達しており全就業者の約4割を占める。出身地は、上海市周辺の華東地域が大部分で、江蘇省、安徽省、浙江省の三省で全体の70%を占める。

外来就業者の平均年齢は30.7歳で、20~30代の青壮年層がその大半を占める。また、学歴については、2000年の人口センサスの結果では、全体の85%が中卒以下の学歴で、高学歴者は少ない。

上海市内の出稼ぎ労働者の主な職種は、製造業、商業サービス業、建設業で、それぞれ127.16万人、83.27万人、72.27万人が働き、上海経済の底辺を支えている。このような出稼ぎ労働者は単純労働者が多く、残業を入れても平均月収は1000元前後。2005年の上海市民1人あたり(非就労者も含む)の平均月収1641元と比べるとやはり低い。また、上海戸籍をもたない外地人たちは、就職、社会保険、医療、教育などにおいて上海戸籍保有者に比べ制度的に不利な扱いを受け、賃金未払いなどの問題も抱えている。

最近の出稼ぎをめぐる動き

最近の中国の出稼ぎの流れに変化が生じている。労働・社会保障部が内陸部の農村の出稼ぎ経験者を対象に、春節(旧正月)明けの意向を調査した結果、以前は、沿海都市部での就職希望者が多かったのに対し、今回の調査では、43%が地元の省内での就職を希望し、広東省の珠江デルタでの就職希望者は20%、上海を中心とする長江デルタは16%にとどまった。中国では、急速な経済発展と最近の中西部重視政策により、内陸部でも中小規模都市の建設が進められ、内陸の都市部でも出稼ぎ労働者の雇用が生まれている。また、沿海都市部は多少賃金が高くても生活費も高く結局あまりお金が貯まらないので、それならば無理して遠くにまで出稼ぎに行かず近場で働きたいと考える人がでてきているのではないかと思われる。

最近、珠江デルタを中心に「民工荒」(出稼ぎ労働者不足)という言葉を目にするようになった。以前であれば、賃金を上げなくても工場の入口に求人の貼紙さえ出せば難なく人が集まっていたのが、最近は人が集まらないのだ。広東省の各都市では出稼ぎ労働者を引き止めるため、昨年最低賃金が大幅に引き上げられた。日系企業の中には、人手不足とコストアップの影響を最小限に食い止めるため、少人数で対応できるよう作業工程を見直したり、内陸地区までリクルート活動を行うところもでてきていると聞いている。

終わりに

出稼ぎ労働者は、日系企業にとっては低コスト人材の供給源、中国の都市部にとっては生活を支える重要な労働力となっている。依然として農村と都市部の収入格差が大きいため、今後とも都市部を目指す出稼ぎ労働者数は増え続けると思われるが、これから中国に進出する企業にとっては、進出地域で今後とも安定的に安い労働力を確保できるかどうかについての見極めが必要になってくるものと思われる。

(資料)増え続ける上海の外来人口

1997年 2002年 2003年 2004年 2005年
上海市の戸籍人口(A) 1262万人 1295万人 1305万人 1322万人 1342万人
上海市以外からの外来人口(B) 106万人 251万人 237万人 387万人 499万人
外来人口の割合(B)/(A)+(B) 7.7% 16.0% 15.4% 21.9% 37.2%
出典:「上海統計年鑑」等

出典

  • NNA(2005年8月30日号、2006年2月9日号、2月13日号)
  • 外灘画報「外来人口上海就職調査」
  • 産経新聞(2006年2月1日)
  • 新快報(2005年12月29日)
  • 国家統計局「各地区城鎮居民家庭収支基本状況」(2005年11月)
2006年2月21日
福島県上海事務所 大島 康範
-->