駐在員雑感(第28回) 「謙虚な気持ち」

  • 投稿日:2007.01.10
    • 002:職員コラム

2007年の上海生活は、「謙虚な気持ち」を思い出すことからのスタートになった。
それは、タクシーでの出来事である。私が目的地を告げるとタクシーは走り出し、少し経ったところで、突然ふつう通る道とは違う道に曲がった。運転手が遠回りの道を選んだのだ。
私が目的地しか告げなかったのも悪いのかもしれないが、運転手にはどの道を行くのかと聞き返す義務がある。(上海のタクシーの運転席の後ろにはきちんとそう書いてある。)

私はいつものように、猛然と抗議し、「代金は払わないぞ」と言った。このような場合、代金の値切り交渉を行なうのは、上海ではふつうであるが、初めて日本からの来た人などには、この行為が奇怪に映るらしく、「そこまでやるの」といつもあきれられる。
確かに金額にしてみれば4元、5元(日本円で60円から70円程度)くらいであり、そう目くじらを立てることではないとも言えるが、上海では極当たり前の行動と認識している私は、その日も当然のように、値切り交渉を行なったのである。
外国人だから少々高くてもいいだろう、どうせ道がわからないから少々遠回りをしてもわからないだろうという精神が私にはどうしても許せないのだ。(運転手が故意に行なったかどうかはよくわからないが。)

結局交渉の末、運転手は、私の主張を一部受け入れ、「ただではだめなので、いくらならいいのか?」と聞いてきた。私は「だいたい17、18元だ。」と答えると、運転手も「17元でよい」といってメーターを止め、私を目的地まで運んでくれた。ここまではよくある光景である。
しかし、降りる際にその運転手は、私が20元渡すと、なんとおつりとして5元を返して来て、しかも「対不起」(「すみません」の中国語)と本当にすまなそうな顔で言ったのである。
私は、この時、一連のこれまでの自分の行動がなんだか恥ずかしくなった。

通常なら、運転手は自分の行為を反省することなく、言い訳を繰り返し、仏頂面での対応となり、客には何の挨拶もないので、いつも不愉快な気持ちでタクシーを降りることとなる。
しかし、今回は、予想外の運転手の対応に、抗議した自分がなんだか惨めに思えたのだ。
私は、いつも中国人に馬鹿にされないように、だまされないようにと、人を最初から疑ってかかる癖が付いていた。中国での生活においては、「性悪説」に立って物事を考えることは、ある意味正しいのかもしれないが、あまり度が過ぎるのも考えものである。

「虚心使人進歩、驕傲使人落後」という中国語がある。
「謙虚な気持ちは人を成長させ、傲慢な気持ちは人を後退させる」という意味である。
運転手からの「対不起の言葉」と「5元のおつり」のなかには、彼の「謙虚な気持ち」が入っていたように感じた。そして、謙虚な気持ちで人に接すればその気持ちは必ず伝わるのだと、彼が私に教えてくれたような気もする。
この運転手からのすばらしい「新年のプレゼント」を今年は大切にしたい。
しかし、あくまでも、だまされない程度に・・・・・・・。

2007年1月10日
福島県上海事務所 安達和久
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