駐在員雑感(第15回)「上海の偽物市場 撤収!!!」

  • 投稿日:2006.01.10
    • 002:職員コラム

上海の「襄陽路市場」がなくなるとの新聞記事を読んだ。
ご存知の方も多いと思うが、この市場は偽ブランド品等を売っている上海市内最大の服装市場である。これまでも「なくなる、なくなる。」といわれてきたが、しっかり生き延びている。

しかし今回の撤収の記事は少々信憑性があるようだ。
その理由は、新聞によると①襄陽市場の土地使用契約の期間が今年の5月で切れるため、契約更新について上海市政府は、知的財産権保護等の観点から更新を許さないとの方針を出していること、②新年早々上海市幹部が「移転」ではなく「撤去、撤収」との意向を打ちだしたことである。知的財産権保護に関する外圧が強なり、偽物一掃に政府が重い腰を上げざるを得ないという事情があるようだ。

襄陽路市場は、上海市の中心部准海路と襄陽南路に位置しており、休日ともなればたくさんの人々(日本人、欧米人等)でにぎわっている。主に衣料品を販売している店が多い。店といっても幅が2m、奥行きが3m程度の展示会のブースのような店が所狭しと密集しており、その数、数百店舗。店と店の間の通路はたいへん狭く、人が多い週末などはすれちがうのにもひと苦労である。まるで日本のお祭り時の神社境内にたくさんの露店が並んでいる様な感じである。

そもそもこの「襄陽路市場」(偽物市場としての)はもとからこの場所にあったわけではない。
かつての上海市内の偽物市場と言えば「華亭路」であった。6m程度の細い道路の両側に約2kmにわたり、小さな店が軒を連ね、道路の中心部分約1m程度が通路であり、歩くのにも苦労するくらいであった。以前上海に駐在した経験者なら偽物市場といえば「華亭路」を思い出すはずである。
この華亭路の店が立ち退きになり、そこに店を持っていた人々の“臨時”の移転先として、「襄陽路市場」ができたという経緯があったようである。

現在の「襄陽路市場」の場所は、1996年に香港の企業集団が5つ星クラスのホテル、オフィスビル、高級住宅開発を目的に土地を取得したが、1997年の東南アジアの通貨危機の影響でその開発がストップし空き地になっていた。そこに、「華亭路」で移動を余儀なくされた人々があくまでも“臨時に”移ってきて、現在に至っている。前回の移転の際も撤収という選択肢もありえたはずであるが、なぜか現在も健在の偽物市場である。

さて、この「襄陽路市場」の商品といえば言わずと知れた有名ブランドの偽物かばん、財布、時計、ベルト、キーホルダー、靴、ボールペン、万年筆、洋服。それから中国雑貨等いろいろそろっている。
ここでは、すべての顧客がこれらの商品が偽物であることを承知で買いに来ている。
価格もピンきりで、交渉次第でなんとでもなり、各店舗によってまちまちである。よって、すぐに商品を買わずに各店舗の価格を比べてから買うのがコツである。
この市場では、(もしかして中国では??)「定価」という概念が存在せず、売り手と買い手が納得した価格がその商品の価格となる。なんとも当たり前であるが、この「討価還価」(タオジャア、ホアンジャア)という行為(日本語:「価格の駆け引きをすること、値引き交渉」)が私には、いかにも中国的と感じられ、「定価」での購入になれ親しんでいる私にはなんとも難しい行為である。

たとえば、「時計」。有名ブランドのものは、800元くらいから提示され、買い手(私)に価格を言えという。こちらが価格を言うと、「もう少し高くしてくれ」と交渉が始まり、交渉が成立すれば売買成立となる。先日などは最終価格が90元でよいといわれ、外国人だから馬鹿にされているなあと感じた。
このように、偽ブランド品が氾濫している上海では、ブランド品を持っている人に対して、「襄陽路」で買ったのか?」と聞くのがひとつのジョークとなっている。

この偽物市場確かに、知的財産権等の観点から厳しく取り締まりを強化しなければならないことは間違いないが、どことなく中国的な「討価還価」が体験できて、中国の勢いを感じさせる混沌としたこの市場がなくなるのは、なんとなくさびしいような気がするのも事実である。
しかし、やはり偽物はよくない。偽物を作られた側の身になって考えればよくわかる。苦労して長年掛けて研究開発した技術、ブランドを簡単に真似されて、安く売られてはこれまでの企業努力が台無しである。
果たして、この市場は本当になくなるのか?今後を見守りたい。

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2006年1月10日
福島県上海事務所 安達和久
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