中国の超高層ビルブームと金融危機

  • 投稿日:2008.05.20
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

中国の主要都市に林立する超高層ビルは、中国経済の急速発展のシンボルとして、また典型的な例として捉えられる。このうち上海は中国経済を牽引する最前線の都市として超高層ビルの建設気運が1990年代前半から高まり、現在では20階以上の高層ビルが4000棟を超え、世界で最も高層ビルの密集する地域となっている。特に上海市の象徴である黄浦江両岸では、政府主導による開発で金融中心地の核となる上海証券取引所や超高層オフィスビル等の施設が数多く建設され、摩天楼を短期間の内に出現させた。これは同時に、諸外国に向けた国力誇示の為のショーウインドーとしての役割も果たし、1998年竣工の「金茂大厦」 (420.5m)はその最たるものであった。その隣地には、中国国内で最も高い建物となる「上海環球金融中心」(492m)が2008年夏の完成をめざして建設されている。さらにその隣には、完成すれば世界一高い「上海センター」(580m)が今年内に着工予定で、3年後の2010年上海万博開催までに竣工させる計画が政府系の不動産投資会社から公表されたばかりである。

 しかしこのような繁栄局面の裏には超高層ビルの建設とともに蓄積されてきた金融危機が潜んでおり、今年に入りその兆候が現れてきた。中国の金融市場の代表である上海の株式市場は2007年の10月の最高点である6124ポイントからわずか半年間弱で50%以上も下がってしまい、上海・深せん両市場の市況がサブプライムローン問題で動揺している欧米市場よりも遥かに悪く、いまだに回復のめどが立っていないようである。なぜ好景気の中国の株式市場がこのような恐慌に陥ったのか。今回レポートでは超高層ビルと金融危機の関連性について少し触れてみたい。

 超高層ビルの完成と金融危機の勃発との間に関連性があることは、過去の歴史を見れば明らかだ。2008年までの100年で4回も発生した大規模の金融危機は、いずれもその時代を象徴する最高層の建物が完成された直後に起こったのであった。1908年から1909年の2年間で現代社会初の高層ビルであるニューヨークのシンガービル(188m)とメトロポリタン・ライフ・タワー(213.4m)が完成したが、これとほぼ同時期に米国内で数百社の銀行が倒産した。(このような危機的局面を急遽立て直すために設立されたFED(米国連邦準備制度理事会)は崩壊寸前の銀行システムを救った。)また、1929年から1931年の世界大恐慌の間には、ニューヨークにウォール街40番地ビル(282m)、クライスラービル (318.9m)やエンパイアーステートビル(381m)が、それぞれ前者の高さを更新するかたちで完成した。20世紀、70年代は米国の繁栄を反映し、世界貿易センタービル(411m)とシアーズ・タワー(442.3m)が建設されたが、まもなく石油危機が世界範囲で発生し、米ドルの大幅値下げの引き金となった。われわれが最も直近に経験したアジア金融危機は、1997年にマレーシアでその当時、世界で最も高いビルであるペトロナスツインタワー (452m)が完成された直後に発生したものであった。

 金融危機の発生を超高層ビルのせいにするのは理解しにくいかもしれないが、超高層ビルの建設イコール不動産バブル、そのバブルが破滅すれば金融危機も自然に発生するという内在的な関連性が存在しているといえよう。経済の繁栄期がピークに達し、衰退を迎えそうな時には「非理性的な楽観投資論」が市場を主導し、あたかも繁栄が継続していくことの象徴として、その最も繁栄していた地域に過分な超高層ビル群が建てられる。資本主義経済において経済母体は「繁栄、衰退、恐慌、復興」という景気循環から逸脱することはありえない。繁栄期におけるルーズな貨幣政策と財政政策は超高層ビルを生み、そしてその超高層ビルが実は経済繁栄期のピリオドとなりうることは歴史よって証明されてきたのである。

 中国の社会主義は、その特殊性により、この景気循環のサイクルから脱出できるかどうかは今のところ断言できないが、上述の株式市場の動向とこの1年間にわたる物価の急激な上昇から、すでに金融危機の兆候が見えているのではないか。積極財政が進む中国において、中央政府のマクロ調整政策が行われているにもかかわらず今でも超高層ビルの建設が続き、北京、広州、深せんなどの経済発達都市だけでなく、内陸の都市にも超高層ビルのブームが起こっている。

中国各主要都市のNo1超高層ビル(竣工済、2007年末まで)

都市超高層ビルの名称高さ(m)
上海金茂大廈420
広州中信広場391
深せん信興広場384
重慶世界貿易センター283
南京新世紀広場255
武漢佳麗広場251
大連世界貿易センター242
北京京広センター207
瀋陽電力大廈188
成都中銀大廈160

中国各主要都市のNo1超高層ビル(建設中)

都市超高層ビルの名称高さ(m)
上海上海センター(仮称)580
広州珠江新城西タワー432
重慶嘉陵帆影425
南京国際金融センター381
瀋陽東北世界貿易広場365
アモイアモイ郵電大廈364
武漢民生銀行大廈331
北京国際貿易センター3期330
温州世界貿易大廈323
広州大鵬国際広場269

なお上記建設中の超高層ビルはいずれも2008年の北京オリンピックの前後に竣工することを目指している。このほか、200m以上の高層ビルも各地で50棟以上が、急ピッチで造られているという。これは北京オリンピックによる中国経済の繁栄期の末期現象とも言えよう。日米欧の経済がサブプライム問題をきっかけに大きく調整し、微弱ながらも再び経済上昇区間に向かおうとする最中で、中国経済のバブルが超高層ビルの完成とともにはじけ、その結果、日米欧の弱いながらも景気回復の局面が水の泡となりかねない。

2008年までの10数年間、世界経済のけん引役といわれてきた中国において超高層ビルが次から次へと建てられることは、中国経済だけでなく、世界経済にとっても悪夢のはじまりと言っても過言ではない。

2008年3月25日
福島県上海事務所
仲琪

データの出所:中国証券ネット、東方ネットなど

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