中国における匿名組合の投資リスク

  • 投稿日:2006.08.28
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

匿名組合とは、資本家と有能な経営者を結びつける企業形態であり、その特徴は、出資者となる資本家が背後に隠れ、対外的には営業者が経営する個人企業として現れるところにある。

日本では商法535条において「当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資し、その営業から生じる利益を分配するべきことを約するものである」と定義されている。中国の会社法においても匿名組合の定義は日本と同じで、ちなみに中国語では匿名組合のことを「隠名投資」という。

上海の豫園を観光したことのある日本の方は豫園の周辺に数多くあるお土産ショップを覚えていると思われるが、実際これらの店のほとんどが、中国国内の匿名投資者が匿名組合契約で運営している店である。

また、外国資本による匿名組合もいろんな分野に進出しているが、主として飲食業と娯楽業が中心で、たとえば日本料理店、サウナ、カラオケなどが多い。

匿名組合の法的位置づけ

匿名組合に関して、日本では商法上に明確な規定があるが、中国の商業法においてはまだ空白の領域であり、中国の匿名組合会社は、法律の真空地帯にあるといわれている。

このため、いざ経営上のトラブルや法律問題が発生した場合、権益の所在があいまいのため、訴訟が長引き、匿名投資者の利益が保護されないことがよくある。

通常、匿名組合会社を作るときには、匿名投資者は自分の権益を保護するため、匿名組合員と営業者がそれぞれの権利と義務を定める内部協議を締結する。

2006年1月1日から新しい「会社法」が実施され、改めて企業の登記制度の重要性が強調され、工商登記に記載されている株主は、会社の株主として認めるが、会社登記謄本に記載されていない匿名投資者は、企業の株主として認められないため、上記内部協議は個人間で作られた借用契約としてみなされることとなる。

中国での匿名組合のトラブル事例

2006年5月30日の「新民晩報」では次の事例が紹介された。

A氏は上海にある日本式スナックの従業員で、2004年4月に経営者である法人代表のB氏から店への投資話を持ちかけられた。

この後、B氏は会社出資金の名義でA氏から7.5万元(約110万円)をもらい、双方が契約の中で、この出資金を「投資金」と記載し、会社の総投資額である75万元のうち、A氏が10%の株を持つと明記し、A氏は2004年5月と6月に2回にわたって配当を受けた。

しかし、まもなく店は都市建設のため立ち退きとなり、営業停止となった。

A氏は7.5万元を返済するように会社とB氏に求めたが、A氏がすでに株主となっているという理由にB氏はその要求を拒否した。このためA氏は区の法院(裁判所)に返済の訴訟を起こした。

一審の裁判官は、A氏は投資契約に署名し、また配当も受けたということでA氏を会社の株主として認定し、会社登記後、出資金を請求できないという法律の規定に従いA氏の要求を却下した。しかし、A氏は一審判決を不服とし、上訴した。

上海市第一中級人民法院では、A氏と会社との匿名契約が成立するかどうかを焦点に審理が行なわれた。
結局、

  1. 会社の株主変更をした際に株主会議決議と工商行政管理局への変更登記など一連の法定手続が行われなかったこと、会社の営業ライセンスに記載されている登録資本金は75万元ではなく、10万元であったため、A氏の出資は会社の増資と株式の増発に関連性がないこと、
  2. A氏の出資は株式の譲渡、贈与に関係ないため、その後の「配当」は正規の投資による配当としてみなされないということ

などの理由により、二審判決ではA氏の7.5万元は会社への「融資」と認定され、その後の「配当」は融資のリターンであるとしてA氏の勝訴判決を下し、B氏と会社側が7.5万元をA氏に返済するよう命じた。

この事例を見ても分かると思うが、現時点では中国において匿名投資契約は事実上、無効に等しい。

上海で匿名投資が増える理由

しかし、中国の経済発展に伴い、とりわけ上海においては、匿名投資の会社が、ますます増加する傾向にある。その理由は主に次の諸点が挙げられる。

  1. 「公務員法」では公務員が企業経営をしてはいけないと定めているため、一部の公務員が親戚や親友の名義で会社の経営を実現する場合。
  2. 一部の企業が社員の企業経営を禁止するため、「1.」と同じようなケースが発生する場合。
  3. 失業者や大学生創業に対する国家の優遇政策を利用して、匿名契約で会社を創設する場合。
  4. 外資系企業が中国に進出する際、まだ一部に制限があるため、或いは外資の進出がまだ認められていない分野があるため、海外の投資者がこれらの禁止規定や制限を回避して中国大陸の身分を借りて進出を果たす場合。

なお上記4つの場合の中で最もトラブルの多いのは「4.」の外資企業の進出のケースである。

ある日系企業の失敗事例

ちょうどこのレポートを作成している最中に、上海にある某日本ラーメン店が廃業となり、私はその清算の仕事に携わっているところである。

この日本のラーメン店が廃業に追い込まれた原因は、場所の問題もあったが、根本的にはやはり匿名組合契約で作られた店であり、日本人のオーナーが現地の匿名組合員にすべてを任せてしまったことになる。

この日本人のオーナーは日本国内では飲食業のコンサルタントをやっており、300店舗以上の料理店の経営を指導している料理店経営のプロといわれている人であるが、中国では大変痛い目にあってしまった。

私もこの件を通じて、中国において匿名組合への投資リスクを改めて感じた。

匿名組合に関する留意事項

これらの状況を踏まえ、すでに匿名組合投資をしている海外の投資者はどうすれば自分の権益を守るのか?中国の商法、会社法に詳しい弁護士は次の点についてアドバイスしている。

  1. 本当に信頼できるパートナーを選択すること。特に財務に関して信頼できる要員を置くこと。
  2. すべての権益は守られないかもしれないが、とにかくお互いの責任と義務を詳細、明確に定める匿名投資協議を締結すること。
  3. 匿名投資者の企業への送金書類、設備などの購入領収書、各種会議の議事録などにおいて、できるだけ匿名投資者の名義を表面化すること。
  4. 匿名投資者が匿名社員、つまり運営の実務者に財産の担保

を要求することなどである。

中国も日本も今、低金利時代が続いている。このため、投資や資産運営の多様化に関する関心がますます高まり、匿名組合の形態を利用するケースもさらに増加していくと予測される。

日中両国間の法律環境や社会事情には違いがあり、匿名組合を中国、とりわけ上海で利用する際は、慎重に検討すべきである。

資料出所:

  • 上海法学サイト
  • 大陸台商経貿サイト
  • 商務律師サイト
  • 金融基礎用語集
  • 新民晩報 2006年5月30日A2版記事
2006年6月15日
福島県上海事務所 仲 琪

*このコーナーで提供される経済レポートは中国の経済事情などを紹介する目的のものであり、読者の皆様が中国での投資を決定・変更・撤回する判断材料ではありません。

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