上海の病院事情

  • 投稿日:2006.04.24
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

上海はアジアを代表する巨大都市として成長しており、現在流動人口300万人を加えると総人口が約1900万人にも達している。人口の増加に伴い医療問題も大変深刻な社会問題となってきている。

中国の医療システムは、市場経済化が進むこの時代でも、今なお旧ソ連式医療システムがそのまま残っており、医療機関は原則として国営で、耳鼻咽喉科、漢方専門科のような一部の専門病院を除いてほとんどが総合病院である。

総合病院はいくつかのレベルに分類され、3級甲が一番レベルが高く、3級乙、3級丙、2級甲……と続く。3級甲の病院(国立、県立、大学付属病院)は市の衛生局や国の衛生部の直轄で最新式医療機器を備え、最高級の国家医療環境基準を満たしている。2級病院(町村立病院)と1級病院(地域治療所)は一般的な病気の治療、予防接種などを行う基礎的な医療機関である。

2級以上の病院は通常24時間体制で運営されているが、人口増加への対応が遅れているため、どの病院も大変混雑しており、手続きのために長時間並ぶことが必要となる。

中国の病院での手続きの流れは概ね次のとおりである。まず、

  1. 受付窓口で治療申請費用を支払う。診察の前に窓口で治療費を支払う必要がある。また、診察を受ける医者のランクによって治療費が違い、良い先生ほど治療費も高い。
  2. 受診、薬の処方箋をもらう。
  3. 処方箋を持って、薬局の「薬価計算所(病院内の薬局)」へ行き、薬代金を支払い、領収書をもらう。
  4. その領収書も持って薬局の「発薬所」で薬を受け取り終了となる。

注射や点滴を受ける場合は更に面倒となる。また、この順番を一つでも間違えたら、再度長い列に並ばなければならなくなる。一つの病気を診てもらうためにおよそ半日はつぶれてしまい、病気以上に疲れることになる。

このような厳しい医療環境の中で中国政府は2001年から医療改革を行い、上海などの都市部では民営病院の開業が認められた。

これらの民営病院では医療保険がほとんど使えないため、費用はもちろん国営病院よりはるかに高い。このため病院にいくと患者が少ないのですぐに診察が始まり、終わると看護婦さんが薬を取りにいってくれる。一部のところでは案内係が終始、患者について親切に対応してくれる。

しかし表向きの親切とは裏腹にこれらの民営病院は、公益心のない暴利を狙う悪徳商人によって経営されていることが多いと、最近新聞が報道し話題になっている。

新華社の調査報道によると、現在上海には20ベット以上を持つ民営病院が100社以上あるが、そのほとんどが美容整形、婦人病、皮膚病、不妊症などの分野に集中している。これらの民営病院の総投資金額は50億元以上にも上るが、そのうち75%以上の経営者が、なんと福建省莆田市秀語鎮という場所の出身者である。これらの経営者は、少数のグループを形成し、経営に当たっているが、もともとは電柱に性病治療の広告を貼り付け、地下の性病治療所や小さな病院の1室を使用して診察を行い、不当な治療費でぼろ儲けすることで原資の蓄積を行ってきた。その後、銀行のローンなどによりさらに資金調達を行い、上海などの中小病院を買収し、その規模を拡大してゆく手法をとってきた。

新華社の記者はこのグループの特徴を「大胆、お金のために何でもやるが医学の知識はゼロに近い」と記している。

また、これらのグループは、派手な広告戦略による知名度アップも図っている。たとえば、「A医院」という不妊症を専門に治療する民営病院は2005年度中国の中央テレビに投入した広告費用は二千万元以上にも達し、医療機関の中のトップであった。2006年も二千万元をはるかに超える広告費用を投入するという。これら上海の民営病院が2005年の1年間に現地の10大メディアに投入した広告費用は4億元を超えたともいわれている。

このほか、タクシー会社やホテルと提携して、タクシーの運転手やホテルに紹介費用を支払うなどの方法で、内陸や海外からの患者の獲得を積極的に行っている。実際にこれら広告宣伝を信用したために、被害にあった事例も報告されている。

とある田舎から来た夫婦が実際はすでに妊娠していたが、それを知らずに「A医院」に不妊治療を求めた。診察の結果「不妊症」と診断された上、5日間で診査費用が3.5万元(約52万円)も払わされたという。この件は幸い和解に至っているが、公立病院で長い列に苦労している上海の市民たちと民営病院で医療詐欺にあった他地区の患者からは、不満の声が上がっている。

しかし上海市政府は民営病院の二重帳簿、つまり脱税問題だけにはメスを入れたが、市民の不満が募っている経営上の問題に対しては、未だ明確な対策が打ち出されていないのが現状である。

中国では、さまざまな分野で市場経済化、民営化が進んでいる。医療分野での市場化にも大きな期待が寄せられているが、その結果は現時点では市民の望みからはるかに乖離していると言える。

資料出典:

  • 新華ネット
  • 中国企業報など

                  

2006年4月20日
福島県上海事務所
  仲 琪
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