中国のクレジットカード事情

  • 投稿日:2006.12.05
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

中国の大手商業銀行のクレジットカードの発行量が大きく伸びている。

工商銀行の発表によると、2006年10月末までに同行のクレジットカードの発行量は国内で初めて1,000万枚の大台を突破した。また、招商銀行は、6月末時点で690万枚に達し、「ハローキティー」をあしらったカードを発行するなどにより、若い女性に人気となっている。

都市別に見ると、上海市は、2006年5月末時点でクレジットカードの発行枚数が5,729万枚に達し、市民一人当たり4.3枚を所有する計算となっている。

また、北京市では、発行枚数は6,207万枚で、市民一人当たり4枚、広東省(深せんを除く)は、8,968万枚で、省民1人1枚で、発行枚数では、広東省が最も多い状況となっている。

カードによる消費額は、2006年上半期で1,622億元に達しており、2002年には社会小売総額の7%であったものが、2005年には約30%にまで上昇し、今後もその割合が上昇することが予想されている。

中国では、クレジットカードが急激に普及しているが、その背景には、制度不備によるトラブルなど中国特有の問題を抱えているのも事実である。

発行枚数急増の背景

クレジットカードの発行枚数の急激な伸びの背景には、各銀行がクレジットカードの申込み資格を引き下げ、各個人の信用調査等を十分に行なわずに、発行枚数の拡大にのみ力を入れている現状があるようだ。

たとえば、上海では、地下鉄駅周辺や繁華街などのいたるところで身分証明書のコピーと在職証明さえ出せば、その場でクレジットカードを申請することができてしまう。

また、2枚のカードを同時に申請すればプレゼントがもらえることを勧めることもあり、個人の信用記録に齟齬がなければ、簡単に複数のカードを作ることができてしまう。

個人の確認が、「身分証明書のコピー」、本物ではなくコピーで事足りてしまいこと自体問題であるように思える。また、カードの販売員は自分の販売実績を稼ぐために、申請人が申請した以上のカードを勝手に作ってしまうこともあるという。

新聞報道によると、あるビジネスマンが上海でクレジットカードを1枚作り、数ヵ月後申請もしていないカードがさらに4枚手元に届き、銀行に返却をしようとすると、銀行側で勝手に「事故者」のブラックリストに載せて処理した事件が発生している。銀行の担当者が自分の実績にするために、申請もしていないカードを作成し、それを取消すためにまた勝手にブラックリストに載せるという信じられない事件である。

クレジットカード関連の犯罪

クレジットカード関連の詐欺事件も多数発生している。

正確な統計ではないが、今年の第3四半期までのクレジットカード関連犯罪は、約5,000件、累積金額はすでに6,000万元以上になったとも言われており、件数では、昨年同期に比べて倍増している。

スキミング事件や勝手に年会費が引き落とされたケース、また、カードの保有者と販売店がぐるになり、販売店で、商品を売ったことにしてカード決済し、商品相当額の何割かをカード保有者にキックバックし、販売店はカード会社や銀行対して、商品代金を請求し売上金を受取り、カード保有者は行方をくらませ、支払いの逃れるという詐欺行為が頻発しているという。

政府の対策

このような状況を受けて、中国人民銀行は、クレジットカードなどの悪用等を罰するため「銀行カード管理条例」を策定することを明らかにした。

カード犯罪防止のためには、①クレジットカードの署名照合の重視、②販売店に対して、盗用されたカードを使用された場合、その識別ができるようなシステム導入の義務化、③クレジットカード犯罪に対する罰則の強化などが盛り込まれる予定である。

一方、カード利用者の利便性を図るために、使用限度額の引き上げや外資系銀行への市場開放なども盛り込まれる。

外国人によるカード使用

中国においては、クレジットカード犯罪が多発しており、クレジットカードの使用自体が危険かというと一概にそうとは言えない。特に、我々外国人にとって、上海での生活において、カードによる消費は大変便利である。

たとえば、出張の際、ホテルの保証金の支払いやレストランでの飲食代金の精算など、人民元を毎回たくさん持ち歩く必要がなく、為替レートもその当日のレートで計算される。

VISA社が発表した「2005年中国エリア旅行消費レポート」によると、2005年度中国におけるVISAカードの消費金額は220億元に達し、2004年度の170億元に比べて30%近い増加となり、また、1回あたりの平均消費金額は2004年度の1,534元に対して、2005年度は1,605元まで上昇した。特に上海での使用がもっと多く、北京、深せん、広州と続くという。

上海で最もカードを多く使用するのは、日本とアメリカの観光客で、彼らによる消費額は国内のクレジットカード消費総額の17%前後に及び、これらの消費は主にホテルと飲食店などに集中しているという。

中国では、カードによる消費社会がようやく始まったばかりであり、一部の中国人には、個人の信用が非常に大切であるという認識に欠けているため、犯罪行為につながるケースも多いようだ。 しかし、外国人や旅行者にとって、上海での消費生活において、クレジットカードでの決済は便利であり、しっかりしたクレジット会社のカードであれば、安全であり問題なく使用することができることを付け加えたい。

ただし、明細の確認はきちんと自己責任で行なうことは当然である。

参考資料:

  • 新聞晨報
  • 揚子晩報
  • 上海証券報
  • 解放日報
  • 中国信用カードの窓
  • 時事通信
  • NNA
2006年11月30日
福島県上海事務所
安達和久
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