中国華南地域の日系企業動向(2)

  • 投稿日:2012.12.24
    • 004:華南地域アドバイザーレポート

5、今後のトレンド
 華南地区の日系企業が今後、どのような動きをしていくかを、前項に述べた会社以外にもヒヤリング、また筆者が目の当たりにしたなかで、記したい。
・生産の効率化
 生産の考え方が大きく変わってきた。以前は、労働者の手作業をメインに行っていた生産を自動化、省力化などに注力することで、競争力を向上させている。
 客先から見た日系サプライヤーの良さは、安定した品質、厳密な納期管理、日本人同士でのコミュニケーション、要求に対する融通性などであり、コスト面では中国系、台湾系サプライヤーに劣っていた。
 現在、コスト面でも中国、台湾系企業にも勝つために、自動化、省力化、効率化を行っている。自動化のためにはそれなりの設備投資が必要となるが、以前は人件費が安いため、例えば、10人分の手作業を自動化しても、それにかかる設備投資額は15人の人件費であった。現在は、人件費が高騰しているので、設備投資による費用対効果が高くなった。また、最新の日本製機械を導入することで生産時間を12分の1にできた会社もある。
 中国系企業は、従来の生産方法では日系の品質水準に近くなっているが、自動化という点では、まだ形だけであり、自動化の設計思想を学んでないこともあり、大幅なコストダウンはされていない。

 ・ 新業種の開拓
 今までは、弱電など同業種での顧客をメインにしていたが、業種を超えて注文を得ることが普通となり、場合によっては業種を変えることも必要となってきている。
 もともと弱電機器(事務機器、通信)の企業が多かったが、自動車部品の加工にも進出しているところが多い。本社のある日本では長年弱電機器しか相手にしていなかった(特に自動車への新規進出は、ケイレツがあるため、非常に難しい)が、中国地域ではケイレツは、日本ほど厳しくなく、逆に現地化を考える自動車メーカーにとっては、長年現地で生産を続けてきた弱電サプライヤーは心強く、発注しやすい。
 また、金型メーカーが切削部品の量産などをしたり、組立業が機械を製造・販売したりと、加工内容自体を変え、これらが主要事業になるようにもなっている。

・ 新地域の開拓
 華南地区の客先だけでなく、華東地域(上海、江蘇省など)や東南アジアへの売上比率を高めている。
 当然、華東地域や東南アジア各国に同業の日系企業は存在する。しかし、華南地域の日系企業のコスト競争力はかなり高い。長年、中国系企業との戦いをしてきたので、自社の生産コストや資材の調達コストも、他地域よりコストダウン対応力は高いようだ。
 華東地域は日系企業進出のブームが2004年以降と華南地域と比べかなり遅く、東南アジア地域はローカル企業の競争力が中国系と比べて高くないので、日系と品質、納期面で競合する企業が少なく、日系もローカル系と価格競争するほどではない。
 但し、ネックとなるのは、他地域までの物流費と関税であるが、製品のサイズや価格などの内容によっては、物流コストもかなり下げられ、更に、中国と東南アジア各国とのFTAを活用すれば、関税のコストか避けられる。
 また、香港を活用することで、物流、決済などは中国本土から直接行うよりも、かなり便利になる。
 弊社も東莞の企業で生産した機械部品をフィリピンの日系企業に販売している。短納期の場合は、香港からの航空便を使えば、夕方に生産終了したものが、翌日には客先についており、決済面でも、香港口座を使用することにより、中国での外貨決済よりかなり簡便に行える。なにより、弊社の貿易手数料を乗せても、現地調達するより20%以上安いということが客先の最大のメリットだ。

 ・ 新客先の開拓
 華南地区のほとんどの日系企業の客先は、同地区の日系企業である。しかしながら、欧米系、台湾系、韓国系、中国系の企業を客先としている日系企業もある。
 以前ほど日本ブランドの驚異的商品はなくなった。任天堂やソニーのゲーム機器、シャープの液晶テレビ、パナソニックのパソコン、キャノンのデジカメなどのうち、一案件でも部品を納品していれば、それだけで企業は潤っていた。
 しかし、現在の驚異的商品は日本ブランドではなくなっている。スマートフォン、液晶テレビは台湾系、韓国系で製造しており、中国における自動車は日系より中国系、欧米系のほうが販売台数は多い。また、白物家電においてはほとんど中国系が市場を占めている。
 受注拡大のために、脱日系を行う積極的開拓戦略という考え方もあるが、今回の反日デモのように、日貨(日本製品)排斥運動の影響を避けるためのリスクヘッジとしての効果もある。
 ある会社では、以前は設計部門に十数人の日本人を中国工場に駐在させ、現地の日系客先との打合せ業務をしていたが、現在、その部門の日本人を削減し、中国人設計者を100名体制にした結果、現在売上の30%を中国系で占め、反日デモの影響による売上減少を中国系向け売上増加で補っている。

6、おわりに
 当地における日系企業に現状の話を聞くと、「好調だ」という回答はほとんどない。むしろ皆無といってよい。
 それでも、なぜほとんどの日系企業は華南地区から撤退しないのか?
 それは、市場の大きさにある。広東省は、世界でも有数の工業地域であり、多様な業種が裾野を広くして存在し、輸出拠点である香港を利用することにより、更に大きな市場と容易にアクセスできるからである。
 更に、その大きな市場があるからこそ、厳しい競争に勝てる余地と自信(戦略)を持っているからである。
 今回のインタビューで、よく聴いた言葉が「脱日本」である。
 日本本社からの技術支援は要らない。
 日系客先から韓国系客先の開拓に力を入れる。
 日本製の材料を台湾製、さらに中国製に変える。など。
 ある会社では、東南アジアに工場を設立した際、現場指揮は中国工場の幹部であり、現在でも中国人の駐在員が数名で工場を運営している。
 これはもはや我々が今まで認識していた既存のいわゆる「日系企業」ではない。華南地区では日系企業の進化がすでに起こっている。
 実際、中国の他地域と比べ、華南地区では、日本からの新工場設立はかなり少ない。中小企業に限っては、自動機メーカーなど、数えるほどしか進出していない。
 理由は、競争に勝てないからだ。筆者自身も、中小企業の華南での新工場設立の相談に対して、ほとんどを「やめたほうがよい」と答えている。
 但し、進化した日系企業やこれらに競争できる台湾系、中国系企業を活用するための戦略は、販売、購買、サービスなど多様にある。
 それらを活用することによって、日本の中小企業も活性化することを期待したい。

以上

 2012年12月6日
福島県上海事務所 華南地域経済交流アドバイザー
渡辺 剛司

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