中国現地職員の給与動向

  • 投稿日:2008.02.15
    • 駐在員レポート

中国政府機関の発表によると、2007年中国のGDPの成長率は11.4%で、5年連続の2桁成長、また上海市は13.3%で、こちらは16年連続の2桁の伸びであると発表があった。
経済成長は依然として高水準で推移しているが、原材料の高騰、人件費の上昇、消費者物価指数(CPI)の上昇(通年で4.8%の上昇)など、企業(特に製造業)の経営環境は厳しさを増していると言える。また、今年は新たに制定された労働契約法の影響により、人件費の上昇が予想され、日系企業にとっても大きな問題となっている。
そこで、(株)エヌ・エヌ・エー社が毎年行っている「日系企業中国現地社員給与動向調査」の結果を参考にして、日系企業で働く中国人スタッフの給与動向調査について紹介する。

 1 月額給与
日系企業に勤務する中国人社員の平均月額給与(2007年11月調査)は、「高級管理職(総経理、支店長クラス)22,539元、「営業一般職」は3,457元、「通訳」は3,104元、「事務系一般(スタッフ)」が2,456元(1元≒16円)となった。一方、技術系では、「工場長」が9,538元、「一般エンジニア」は3,153元、「システムエンジニア」は4,777元で、やはり、技術系の給与水高が高く、特にIT技術者が高いことが伺える。また、「生産一般工員(ワーカー)」は1,078元で1,000元を越えた水準となっている。
地域別では、「営業一般職」では、北京が4,245元、上海が4,195元、広州が2,716元で、中国国内市場を狙う販売拠点が多い、北京市、上海市が高水準となっており、広州市は2都市に比べて低い水準となっている。
「事務系一般」では、北京が一番高く3,726元、次いで上海3,050元。
「一般エンジニア」は上海市が4,251元と一番高く、次いで広州市3,725元、北京が3,269元となっており、上海市周辺や広州市の製造現場が集積している地域の水準が高い。
「一般工員(ワーカー)」は、北京市が1,819元、次いで上海市1,246元で、広州市972元と珠江デルタ地帯は、まだ1,000元台には達していない。

2 新卒
2007年の新卒者の平均月額給与は、大学院卒が3,881元、大学卒が2,427元、専門校卒が1,901元となった。大卒を地域別で見ると、北京市が3,597元と最も高く、次いで上海市2,904元、広州市は2,253元となった。
日系の製造業では、ある程度技術的知識があり、給与水準もあまり高くない「専門校卒」の人材を採用し、熟練工として育てる動きがあり人気が集まっている。

 3 昇給率
2007年の昇給を実施した企業は、調査全体の86.2%で、実行昇給率は平均10.8%となった。また、2008年に昇給を予定している企業は81.8%で、予定昇給率は9.6%となっている。 2007年職種別の実行昇給率は、「事務系一般スタッフ」が10.2%、「生産技術系一般(エンジニア)」が10.4%とほぼ同程度であるが、昇給率は10%を越えている。また、「生産工員ワーカー」の昇給率は8.5%と、10%には達していないものの、高い上昇率であるといえる。
地域別に見ると、日本の自動車産業が集積している広州市の「一般エンジニア」の昇給率が14.0%と上海の9.3%、北京の6.7%と比較して著しい伸びとなっている。「生産一般工員」の昇給率は、北京10.5%と最も高く、上海は7.9%、一般エンジニアの伸びが高かった広州市は、6.0%にとどまっている。

4 ある企業経営者の話 
2008年1月1日から、労働契約法が施行され、経済補償金など企業の負担が以前に増して上昇することとなる。加えて、賃金の上昇は今後も起こると考えられるため、これまでのような安い人件費を活用したモノづくりのビジネスモデルが転換期に来ているといえるかもしれない。
上海市郊外で、メッシュパレットの製造をおこなっている企業のオーナーは、「97年にコストダウンのため、中国進出を決めた。これまで製品は、日本、韓国などに輸出していたが、最近中国の工場を閉めようと思っている。その理由は、①為替の問題(97年当時1ドル=8.37元→07年1ドル=7.4元)②人件費の上昇の問題(最低賃金 450元→840元、その他福利厚生の費用も上昇)③08年1月施行予定の「労働契約法」の施行で会社経営が非常に難しくなる。」「ベトナムへの展開も考えたが断念した。原材料の調達が中国以上に難しい。すべて政府が利権を握っている。物流コストも高い。人口が少ないため、ワーカーが不足しており、労働者の賃上げ要求圧力が非常に高く、ストライキが多い。最低賃金は中国より安いが、3年から5年後にはすぐに中国の水準に達すると思われる。」と語っていた。

 このオーナーが言うように、労働集約型、輸出型のビジネスモデルはすでに曲がり角を曲がり、新たなビジネスモデルへの転換が必要なのかもしれない。

 2008年2月15日
福島県上海事務所 安達和久

出展;NNA「日系企業中国現地社員給与動向調査 2008年版」の概要
    中国(香港、マカオ、台湾を除く)に進出している日系企業413社のデータ
用語説明
 「月額給与」:手当て等を除いた基本となる1ヶ月の賃金 (所得税込み)
 「高級管理職」:現地法人、事務所の最高責任者
 「事務系一般スタッフ」:現地法人、事務所などにおいて総務系の業務を行うスタッフ
 「営業一般スタッフ」:実際の商品の販売、販路開拓などに従事する担当者
 「生産技術工場長」:製造現場での最高責任者
 「生産技術一般(エンジニア)」:設計、研究、開発などに従事する担当者
 「一般工員」:製造現場の作業員

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