<法律相談4>外国人による、国内企業投資に際しての匿名投資協議の効力について

  • 投稿日:2009.11.09
    • 駐在員レポート

Q) 現在、会社をスタートするに当たり、若干の投資をしておりますが、これから複数の日本人も投資(出資)する予定でおります。

 ところが、中国人老板の話ですと、外国人個人では中国企業には出資しても投資者として登録出来ないので、社内文書にてお互いに約束を守れば良い。何か問題が発生した場合は、その文書が法的効果が有る。と言う事です。

 これに対し、日本人のメンバーはもし出資者として登録出来ない場合でも何らかの担保が無いと、不安で参加出来ない。

 との事。当方、困っています。彼らは投資して、さらに仕事も持って来てくれる予定だからです。何か良い対応方法は無いでしょうか?

 

A) 中国の『公司法』は、外国人の匿名による国内資本企業への投資に対し規定を定めていない。しかし、実務上このような匿名投資者が投資者の立場を主張し、配当或いは企業に投資額の返還を求めるといった事例は存在する。よって、当該事項につき法院は原則的処理方法を制定した。本意見書は上海市高級人民法院の関連原則に基づき作成したものであり、上海市の管轄内における同類事例にのみ適応するものである。

 

1.  中国の法律及び行政法規に違反する匿名投資協議は無効である

 『上海市高級人民法院による、公司訴訟案件審理に関する若干問題の処理意見(一)』の関連規定によると、当事者間、一方は名義のみの出資者、他方が実質的出資者と約定している場合、当該約定は会社に対しなんら効力をもたない。しかし有限責任公司において、半数以上の出資者が、実質的出資者による出資の事実を明らか了解しており、また、会社も当該者が実質的出資者としての権利の行使を容認し、さらに法律法規に違反する行いが認められない場合において、人民法院はこの実質的出資者が会社の出資持分権を享受することを認めている。

 

 このことから一般的に法院は、匿名投資協議は無効と判断するが、一定の条件を満たした上でなら、匿名投資者も会社の出資持分権を享受することができる可能性がある。しかし、双方の協議が中国の法律及び行政法規に違反している、或いは外国人が『外商投資産業指導目録』の規定に違反している、または匿名投資方式を用いて、制限が加えられている、或いは禁止されている産業に参入した場合、上記に述べた一定の条件を満たすか否かに関わらず、その匿名投資協議は無効と見なされる。

 

2.  その他匿名投資協議の効力認定には実質的状況を鑑みて判断される

 匿名投資には、法律法規による明確な規定が存在しないため、双方当事者が自由意志において協議一致し、且つ中国の法律及び行政法規に違反していない匿名投資協議については、司法の実務上、一般的にその法律的効力の有無を判断することは容易でなく、実際状況に即した判断をする必要がある。

 

 上海の司法実務上、匿名投資者が『上海市高級人民法院による、公司訴訟案件審理に関する若干問題の処理意見(二)』(以下『高院意見()』という。)の関連規定に適合している場合、即ち、匿名投資協議が法律の規定に違反せず、また一方が実質的に出資することを双方で約定し、さらにもう一方が出資持分者として公司経営に参画し、さらに実質的出資者が出資者として投資リスクを負うことを約定している場合、匿名投資者も会社の出資持分に応じた財産利益を享受することができる。

 

3.  外国人個人は、中国の公司に投資することができ、また投資者として登記することができる

 『中華人民共和国中外合資経営企業法』(以下、『合資企業法』という)の規定によると、外国人個人は中国の公司、企業或いはその他経済組織に投資を行い、中外合資経営企業(以下、「合資企業」という。)を設立することができる。よって、相手方が公司、企業或いはその他経済組織であれば、「外国人個人が中国企業に投資した場合、投資者として登記できない」という言い方は存在しない。ただ、法律に従って国内資本企業を合資企業に変更する手続が必要である。ここで注意すべきは、外国人の投資先産業が、『外商投資産業指導目録』の関連規定に適合していなければならないことである。

 

  『合資企業法』では、中国人個人と外国人との間で投資を行い合資企業を設立することを禁じているため、貴県県人会会員の方が中国の個人と合資を予定されている場合、匿名投資方法以外に投資方法はない。このような匿名投資協議は、法律法規に違反すると見なされるため、名義投資者が匿名投資協議の約定に違反した場合、匿名投資者は、会社の出資持分を享受できず、名義投資者へ投資額の返還を求めることのみ可能である。

 

4.    その他企業のやり方

 現在、一部の外国人個人と企業とのあいだでもこのような匿名投資のやり方で投資が行われており、その目的の多くは、中国の『外商投資産業指導目録』が外資の進入を制限及び禁止してしている産業への投資である。しかし実際状況を見ると、匿名投資者の会社に対する抑制が強力あれば(たとえば、会社の高級管理人員を抑制管理でき、会社印鑑の管理や財務面の管理も十分にできるのであれば)、何らかの争議が発生する可能性も小さいが、もしそうでなければ、往々にして争議が発生している。匿名投資者の利益の確実な保障は非常に難しいというのが現状である。

 

5.    資金確保の方法

 もし貴県県人会会員の方がどうしてもこの匿名投資のやり方で投資を行う必要に駆られているのであれば、当所としては、中国側と二つの協議書を交わされることを提案する。ひとつは借款協議書である。同時に中国側が持分を担保として提供することを約定されたい。そしてもうひとつは、匿名投資協議書である。もし、後者が無効と認定されたとしても、当該県人会会員は、借款協議書により、中国側に借款の返還を要求することができ、中国側が借款の返済義務を履行しない、または履行できない場合は、担保の持分を現金化して投資資金の安全を保障できる。

 

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