労働契約法について

  • 投稿日:2007.07.23
    • 駐在員レポート

中国の労働契約法が2007年6月の全人代常務委員会で可決され、2008年の1月1日から施行されることとなった。

今回の労働契約法の趣旨は、まず第一に、労働者の利益保護に重点が置かれていることである。主に、書面による契約の締結や無固定期間労働契約の奨励、経済補償金の支払い、派遣労働者の保護などが特徴であるが、以下簡単に内容を紹介する。

1 書面による労働契約

書面による労働契約は通常であればごく普通であるが、これまでの労働法には、その規定はあったが、罰則規定が明確でなかった(労働法第98条)。

新労働契約法では、雇用開始の日から1ヶ月以内に書面による労働契約を締結しなければならず(10条)、これに違反した場合は、二倍の賃金を支払わなければならないこととなっている。(82条1項)

また、雇用単位が労働者を雇用してから1年以内に書面により労働契約を締結しない場合は、雇用単位と労働者は既に無固定期間の労働契約(終身雇用)を締結したこととみなされてしまう。

2 雇用長期化

これまでは、比較的短期間(例えば1年)で雇用契約を更新し、労働者が不要になれば契約を更新せずに、雇用関係を打ち切ることができた。

しかし、新労働契約法では「期限付き契約」を結び、その更新を行なった労働者は、3回目の契約締結の際には、労働者が要求すれば、無固定期間の労働契約(実質的な終身雇用)を要求できることとなる。(第14条)

 

また、10年以上同じ職場に勤務した従業員は、従業員から要求があれば、無固定期間労働契約(終身雇用)に切り替えなければならない点は、従来とほぼ同じである。

これらに違反した場合は、雇用者は二倍の賃金を支払わなければならなくなる。(82条2項)

3 試用期限の制限

これまでも、正式雇用前に試用期間を設けることがあり、試用期間中はいつでも解雇することができたが、新労働契約法では、雇用に適さないという証拠を雇用単位が労働者に提示し、説明しなければ、試用期間中に解雇できなくなった。(22条)

また、契約期間に応じて試用期間の長さが制限された。労働契約期間が1年未満の場合、試用期間は1ヶ月を超えてはならず、1年以上3年未満であれば、試用期間は2ヶ月まで、3年以上又は無固定期間は6ヶ月までとなった。(最長6ヶ月というのはこれまでと同じです。)

4 経済補償金について

雇用単位が労働者との労働契約を解除する際には、経済補償金を支払うことが明記されました。(46条)

労働契約が満期を迎えて終了する場合にも、経済補償金を支払う必要が出てくる点には注意が必要である。

これまでは、労働契約が期間満了により、更新を行わない場合には、経済補償金を支払わなくても良かったが、新労働契約法においては、勤務年数によって経済補償金を支払うこととなっている。通常は勤務年数満1年につき1ヶ月の賃金が基準となる。

なお、労働者が会社に重大な損害を与えたり、刑事責任を追求された場合の解雇(第39条)や、労働者側から30日前までに書面にて契約を解除する通知をした場合は、これまで同様に経済補償金は不要となる。いずれにしても雇用単位のコスト増となる。

5 派遣労働について

中国では、雇用単位が直接従業員と雇用契約する場合と労働派遣単位(人材派遣会社)を通して、労働者を派遣してもらう方法がある。

通常、現地法人は直接雇用が可能であるが、駐在員事務所は直接雇用ができないため、通常は労働派遣単位を経由して労働者を派遣してもらう。

これまでの説明は、主に直接雇用ができる場合に適応されるが、派遣の場合でも注意しなければならない点がある。

  1. 労働派遣単位は、派遣労働者と2年以上の期間の決まった労働契約を締結しなければならないこととなる。(58条)
  2. 契約解除に伴う経済補償金については、派遣先が、労働派遣契約の期間満了前に、労働者に更新しない旨通知することで、当該契約を終了することは可能であるが、労働派遣単位から派遣先に、勤務年数に応じた経済補償金相当額の請求がなされ、支払わなければならなくなることが予想される。
  3. 書面による労働契約については、派遣の場合、雇用単位(派遣先)と労働者の直接書面での労働契約締結はこれまで同様に必要がない。

労働契約法の趣旨は、これまで短期間で契約を更新してきた労働者の権利を保護することが目的であり、通常の先進国ではごく当たり前の内容となっているが、人件費の安さを武器に世界と競争してきた中国の外資企業などにとって、これまでよりはコスト増になることが予想される。

中国の労働者は、自分のキャリアアップのために企業を渡り歩くことを是としているため、無固定期間労働契約が益々増えてゆくかどうかについては疑問が残るが、経済補償金等の支出(コスト)がこれまで以上に増加することは間違いないようである。

参考文献:

  • 時事速報「中国法務」
  • NNA「中国法律基礎講座」
  • 「人事・リスクマネジメント相談」
  • 日刊華鐘通信「中国ビジネス相談Q&A」
  • キャストコンサルティング「労働最前線」
2007年7月31日
福島県上海事務所
安達和久
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