駐在員雑感(第27回) 「人治の国ではあるけれど」

  • 投稿日:2006.12.25
    • 002:職員コラム

先日、上海福島県人会のビジネスセミナーを開催した。労働に関する法改正について日本人の弁護士先生にご講演をいただいた。セミナーの参加者の多くは、上海の日系企業で働く社長もしくは管理職の方であり、日々中国の突然の法律改正や行政機関の不透明な対応に苦労されている。
その講師先生が、最後に話された言葉が大変印象的であったので紹介したい。
(講師先生が話された部分は、以下『』のみ。内容は概略。)
『自分が今どの位置に立っているのか?その基準となるのはあくまでも「法律」です。中国において種々の問題に直面した時、まずは、自分の行なおうとしている解決策が、法的にどの位置にあるのか、法的にどの程度ずれているのか、またその幅が認められる範囲なのかなどを見極めてから、実務的に解決を図ることが望ましい。』
よく中国は「人治」の国であるといわれる。これはまったくそのとおりであるが、いざ問題を解決する場合、まずは「法律」にどのように記載されているのかを知ることが大切であり、その法律からどのくらいずれた範囲で、その問題の解決を図ろうとしているのかを理解したうえで、実務的に解決すべきということだと思う。
たしかに、本来は法律では禁止されていることも、なんとなく当局とのこれまでの関係からできてしまうことが多いのも中国である。
しかし、当局は、いざとなるとこれまでは、目をつぶっていたにもかかわらず、にわかに今まで眠らせていた「法律」を盾に、法の遵守を厳しく求めてくる場合がある。
中国の法律は、大枠を決めて、詳細については各地の政府が自分たちの利益になるような形で、行政の裁量を幅広く利かせ、法律を運用することも事実である。ある時は問題ない、ある時はだめ、といったように、統一した判断ではないこともしばしばである。
「上に政策あれば、下に対策あり」。上つまり中央政府が法律などで禁止や制限する政策を打ち出す。日本であれば、いっせいに全国で同一の基準で運用が図られるのが普通であるが、中国では、これを受け各地方政府は、地域の実情に合わせて、というか自分たちに有利な解釈で、法律を運用する。また、一般住民もその法律の抜け道を考え出し、自分の利益になるように、禁止または制限されている行為を何とか行なう手段を講じ、実現させる。
「法律は守るもの」という概念ではなく、なんとか対策を講じてすり抜け、自分の主張を実現させる。このように融通が利いてしまうところに危険が存在するのである。政府と関係がいいから、本来はできないことができてしまう。このことによって本来の法律の規定からどんどん外れてしまう場合もあるのだ。
コンプライアンスが叫ばれている時代。やはり、基本となる「法律」を知った上で、可能な範囲での運用、問題解決を図ってゆくようにしないと、後で取り返しがつかなくなる。
中国に限ったことではない極当たり前のことであるが、中国生活が長くなり、交渉で何とかなる。ゴネれば、何とかなるというような考えが先行しがちの私にとって、ふと我に返り、「基本」の大切さを実感したセミナーであった。

2006年12月25日
福島県上海事務所 安達和久
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