駐在員雑感(第23回) 「精神文明建設」

  • 投稿日:2006.09.25
    • 002:職員コラム

国によって生活上のマナーに対する考えは様々である。
最近中国政府も2008年の北京オリンピックを控え、「中国人のマナー改善」に本気で取組むため、「文明素質行動計画」なる物を策定し、国民にマナー向上を呼びかけている。また、この計画に加えて、昨今中国人の海外旅行者が増えており、マナー違反に関して諸外国からの批判が多いことから、中国人の「マナー違反の代表例」を公表し、国民にマナーを守るよう啓蒙活動も行われている。

中国人のマナー違反の例として挙げられているのは、「旅先では大声で話す。騒ぐ。」「たんを吐く」「所構わずゴミを捨てる」「列に並ばない」「だらしない格好で街を歩く」などなど。
また、海外旅行でのマナー違反の代表例には、上記の行為に加え、「外国人と強引に写真を撮る」「バイキング式の食事で取りすぎて残す」「ホテルの備品を持ち帰る」など。
確かにこれらは、中国で生活した経験のある人、あるいは中国に旅行したことのある人ならすぐに理解できるのではないだろうか。

私が上海で遭遇したいくつかの事例を紹介したい。
まず、「ゴミを捨てる」。これは、日常茶飯事で、あまり気にとめなくなってしまったが、とある光景を1日のうち2回も目撃したのには驚いた。
それは、公共バスの運転手が窓からゴミを捨てる光景である。
私が交差点で停車中、となりの公共バスの運転手が運転しながら、物を食べている。その運転手の左手には、ビニール袋入りのちまき、右手はハンドルを握っている。バスには当然多くの客が乗っている。運転手は、そのちまきを食べながら運転し、食べ終わった瞬間、おもむろに窓を開け、ちまきの入っていたビニール袋を何のためらいもなく外に捨てた。
そして同日の午後、今度はバナナを食べながら運転している公共バスの運転手を発見。朝と同じ光景で、食べ終わるとバナナの皮を何のためらいもなく窓から外に捨てた。
まず、言いたいのは、多くの客を乗せた公共バスの運転手が、仕事中に物を食ながら運転するなということ。そして、中国では、「捨てる人」と「拾う人」は別に存在し、「捨てる人」は「拾う人」がいるから、ゴミを捨ててもいいという意識があるようにさえ思えることが信じられない。

次に「列に並ばない」。レジで並んでいても未だに並ばないで割り込む人がいる。多くは中年以上の男女である。さすがに上海では若い人が列に並ばないで横入りする光景は少なくなったように思う。私がはじめて中国で生活して、最も驚いたことは、この列に並ばないで横入りを平気でやられたことであった。
「外国人と強引に写真を撮る」。かつて北京を旅行した時、強引に私の娘と写真を取らせてくれとせがまれたことが何度もあった。
「バイキング式の食事で取りすぎて残す」。よくレセプション等に出席した時に、ここぞとばかりに大盛りに料理をとり、すべて食べるならいいのだが、それを残して、さらに食べ物をとりに行く姿をよく見かける。
中国でレセプションを開催する時、日本人と中国人の比率を考えて、お料理の量を決める必要がある。日本人招待客が多い場合は、100人の参加者でも80人分程度の料理を準備すれば十分足りるが、中国人が多い場合は、100人分準備しなければ間に合わないことが多いという。なんとなく納得してしまう。
「ホテルの備品を持ち帰る」。中国のホテルではチェックインの時に、保証金を払わなければならないが、これは中国人が勝手にホテルの備品を持ち帰るため、ホテル側がそれを防止するための対抗手段なのであろう。これもまた、納得してしまった。

いずれも中国では日常よく遭遇する光景である。
中国人にとって、上記の行為はマナー違反でもなくなんでもない、「極当たり前の行為」なのだろう。だから何のためらいもなく行い、その行為の野蛮さに気が付かず、中国ではもとより、海外でも同じ行為をしてしまう。
中国政府の今回の啓蒙活動は興味深いものであり、この取組みにより、北京オリンピックまでどのようにマナーが向上するか楽しみである。
また、同時に自分自身も居住まいを正さねばとも思った。

2006年9月25日
福島県上海事務所 安達和久
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