最近の省エネ事情

  • 投稿日:2005.09.08
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

今回は2回目の経済レポートですが、最近の省エネ事情について簡単に紹介したいと思います。

最近上海の新聞を読むと、どの新聞にもこれまであまり聞いたことのない「油荒」という新しい言葉が何度も目に入ってきます。「油荒」を日本語に訳すと「ガソリン不足」ということで「油」は「ガソリン」、「荒」は「乏しい」ということです。 8月から9月までの経済の分野での大きなニュースといえば人民元の切り上げのほか、国際石油相場の連続高値更新が世界経済に対して大変大きな影響を与え、最も目を離せない重要なことに違いありません。中国のガソリンの小売価格もそれにつれてわずか2ヶ月の間に3回も引き上げられ現在は平均で4.5元/1リットルとなり、去年同期に比べて40%以上も値上がりました。ガソリンスタンドは「中国石油」(PETRO CHINA)と「中国石化」(SINOPEC)という二大石油精製グループに寡占されていますが、「売切」の看板をどこのスタンドでもよく見かけます。この背景には1994年から2004年の10年間において中国の自家用車の数、特に上海を中心とする華東地域で私営経済の発達に伴う自家用車が急増してきたからです。統計によると、この10年間で中国全土の自家用車の数は205.42万台から

1365万台まで増加し、10年間で6倍近くも増加しました。

それから都市化の進展が急ピッチで進む中で道路建設も進み、その結果人口の大移動が発生しました。国土の広い中国では長距離の移動をするには通常列車を使いますが、地域経済発展の不均衡で百万人単位の移動が大変頻繁に発生し、列車の輸送能力も限られているため、長距離バスが中国の農村地帯から都市へ移動する一般的な手段となってきています。

また、経済の発展に伴う企業の増加、企業の物流需要などによる運輸部門のエネルギー消費も凄まじい勢いで増加しています。統計によると1994年から2004年の10年間において中国の民生部門の所有車数は941.5万台から2742万台まで増加し、年平均増加率は11.3%に達しました。

一方で電力不足も深刻で、去年よりは幾分緩和されたようですが一部の地域ではまだ企業の生産に影響を与えています。同じく「電荒」という造語もこの数年間でよく使われるようになりました。電力問題についてはJETRO上海センターのホームページを見れば分かりますのでここでの展開を省略させていただきます。

このような厳しいエネルギー環境の中で中国政府は、1998年から「省エネ法」を制定し公表しています。ところでこの「省エネ法」はエネルギーの有効利用と節約を唱えたものの、具体的に産業部門、民生部門、運輸部門に対して省エネの基準を設けておらず、つまり詳しい実行方法を定めなかったためその存在は大変薄かったのです。それに地方政府が経済の発展を最優先したということで「省エネ法」は一般民衆にはあまり知られていませんでした。ところが、中国は石油の輸出国から輸入国に転じたことから中国政府もエネルギー安全の問題に着目し始めました。2003年から中国国務院の機構である国家発展改革委員会が「省エネ法」の関連政策、指標規準などを制定し、2004年には「省エネ法」の実行細則として「省エネ中長期計画」を公表しました。この内容は主に次のとおりです。

  • 産業部門においては熱と電気の一体化管理を実現させることでガス、廃熱、余熱などを技術面と管理面両方においてその総合利用効率を高めることを図る。インバーター電機を普及させることで電気の利用効率を高め、省エネ設備の設置を大規模に推進する。石炭の燃焼技術を改良し、石炭の利用効率を高める。
  • 民生部門においては省エネ型のエアコン、冷蔵庫の使用を進める。機器単体の効率改善を強制的に規定すると同時に消費者に電気製品の使用習慣の改善を呼びかける。建築の省エネを図ること。建築の構造、材料、器具を省エネ型のものを使うことで断熱保温性能を高め、冷暖房、照明用機器等の省エネを実現する。民生業務部門においては特に高級娯楽場所、デパートなどの冷暖房使用に行政指導を与える。
  • 運輸部門については公共交通の規模拡大に努め、知能交通システム(ITS)主導型の現代交通管理技術を発展させる。大都市においては軌道交通の建設を加速することで立体交通システムの形成に重点をおく。古い車両、船舶を速く淘汰させることで燃料の利用効率の向上を図る。などです。

中国政府が今、省エネに力を入れて強化する中で上海市政府も9月1日に最新の地方省エネ政策を35項目も発表しました、その主な内容は以下の諸点です。

  • 政府部門にある排気量の大きい自動車の使用を廃止
  • 旅客輸送部門、物流運輸部門に対しても排気量の大きい旧型の自動車の使用を廃止
  • エアコン、冷蔵庫などの電気製品に対して省エネルギーラベリング制度を導入し、年間の電力消費量や省エネ基準の達成率などを示すラベルを機器本体に添付する義務を課すことで消費者への省エネ宣伝にも努める。
  • 道路照明など公衆場所での景観用、照明用器具は自動制御式のものを普及する。
  • 新築住宅、政府投資の公共建物は省エネ率50%の基準で設計、建造すること。
  • ホテルに備えられている使い捨ての物品をなるべく減らし、あるいは無料提供をやめる。
  • 保健食品、化粧品、食品業界を中心に包装の簡素化を図る。
  • 企業団体が原材料の自主消耗規制を作成する。
  • 役所の建設基準と内装基準を厳格化する。
  • 内装済みの新築住宅を毎年800万平米以上建設する。
  • 地上空間と地下空間の建設に際して大型交通ターミナルなど公益性の高い交通施設の建設を優先し、地上交通と地下交通を総合的に開発する。
  • 16の中心地と郊外の衛星都市の建設企画に地下街の建設計画を盛り込む
  • 旧式便器の改造で節水を図る。
  • 環境整備、緑化などにおいて中水、雨水、川水の再利用に力を入れる。
  • 延べ床面積が5万平米以上の大型施設の屋根雨水の蓄積再利用を図る

など

今後、中国のエネルギー需要が一段と増えると予想される中、このような一連の省エネ措置がその役割を果たすことが大きく期待されています。このほか、中国政府は最近、エネルギーオプションなどの金融方法の運用をも積極的に検討し、厳しいエネルギー供給を対応するため、省エネ措置の多様化がこれからの5ヵ年計画における重要な一部分となると思われます。

2005年9月2日
福島県上海事務所
仲 琪
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