中華人民共和国出境入境管理法施行後の動向
- 投稿日:2013.08.14
- 駐在員レポート
2013年8月14日
福島県上海事務所
※本レポートは、福島県上海事務所と法律顧問契約をしている上海里格(リーグ)法律事務所が2013年7月1日より施行された中華人民共和国出境入境管理法(以下、新出入国法)について施行後1か月間の動向をまとめたものです。
なお、本文中に記載されている当所とは、上海里格法律事務所のことを指しています。
<新出入国法施行後の動向>
1.出入国による外国人の居留許可証書への監督管理
新出入国法の公布により、居留許可手続き(新規申請、延長)の期間は5営業日から15営業日に調整され、手続き時間が大幅に延長された。同時に、居留許可の延期手続きは、元の居留許可証書の有効期間が満了する30日以前に行わなければならなくなった。
これに沿い、外国籍従業員を雇用している使用者は自社の外国籍従業員に対し居留許可の延期手続きを適時に行ない、一方で居留許可延期手続中の外国籍従業員の業務を適切に調整する必要がある。その理由は次の通りである。
1)新出入国法の規定に厳格に沿えば、居留許可証書の延期手続きは居留許可期間が満了する30日以前に行なわなければならず、さもなくば延期申請が受理されない可能性がある。
通常、新法律の施行開始段階においては、主管部門(ここでは、上海市出入国管理部門)は、時間的制限については緩和的な対応を見せることが多いのだが、とはいえ、やはり少なくとも15営業日は必ず確保し、余裕をもって申請すべきと考える。時間的制限についての緩和的対応は不確実なものであるし、主管部門は通常、新法施行より時間を経るにつれて、法律規定に符合するまで徐々に厳しくしていくのが常である。
2)新出入国法の規定によれば、居留許可証書手続きの過程においては当該外国籍申請者のパスポート原本を出入国管理局に提出する必要がある。従って、当該期間内の国内外の出張、航空機の搭乗手続き、ホテルのチェックイン等は一定の影響を受ける可能性があることから、使用者は事前に外国籍従業員の業務、特に出張予定等を調整しておく必要がある。
しかし、当該従業員の手続期間内に出張の必要が生じた場合の対応策はどうか。これは多くの外資企業が直面し、懸念している問題である。これについて、調査を行った。
1)中国国内出張の場合
外国籍従業員が出張等のために中国国内移動する場合、出入国管理局が発行した居留許可受理票を以て航空機の搭乗手続き、ホテルのチェックイン手続きを行うことが可能である。ただしその際の居留許可受理票には、上海出入国管理局の公印の捺印と本人の顔写真の貼付が必要である。
●居留許可受理票:居留許可証書手続きを行い、パスポート原本を提出した際に、出入国管理局より発行される。ただしこの時点で、受理票上には上海出入国管理局の公印の捺印は無く、当然本人の顔写真も貼付されていない。居留許可受理票を発行する上海出入国管理局の窓口担当者より、今後国内移動予定があるかどうかを問われ、写真の貼付と公印捺印をもらう窓口を案内された例もあるが、窓口担当者によって対応の仕方も一定ではないようである。居留許可手続期間中に中国国内移動予定のある申請者においては、あらかじめ顔写真を準備し、自ら中国国内移動予定があることを告げ、公印捺印をもらえる窓口を案内してもらうようお薦めする。
●当所が虹橋空港、浦東空港の航空安全検査部門に確認したところ、外国籍従業員は居留証書受理票(顔写真と出入国管理局の公印捺印があるもの)を以て通常の搭乗手続きを行うことができるとのことである。ただし、空港の係員や安全検査員がこれに慣れていない場合、確認のために一定のタイムロスを生じる可能性もあるとのことで、しばらくの間は、時間的余裕をもって空港到着してほしいとのことであった。 当所が上海、蘇州、南京各市内のホテルに確認したところ、ホテルチェックインについては、当該外国籍従業員のパスポートのコピー(顔写真のあるページ)、元の居留許可コピー(ホテル入居期間が有効期間内にあるもの)、出入国管理局が発行した居留許可受理書(顔写真と出入国管理局の公印捺印)をもって、チェックイン手続きを行うことができる。ただし、一部のホテル、特に外地のホテルではこれを承認しない可能性も排除できない。事前に宿泊するホテルに確認されるのが望ましい。
●鉄道移動の場合もこの受理票を以て鉄道チケットを購入することができる。現在、中国国内において鉄道チケットを購入するには、実名を登記しなければならない。実務において通常、外国人はパスポート、外国人居留証、外国人出入国証書等の八種の有効身分証明書を以て窓口で鉄道のチケットを購入することができるとなっており、厳密にいうと出入国管理局発行の居留許可受理票は上記の有効身分証明に該当しないのであるが、当所が了解しているところでは、上海鉄道チケット購入窓口においては、パスポートのコピー(写真のあるページ)や出入国管理局発行の居留許可受理票でも、中国国内の鉄道チケットを購入することが可能である。ただしここでも、移動先の外地においても鉄道チケットが購入できるかどうかは、事前に確認しておく必要がある。
外国籍従業員が居留許可証書手続中に中国国内移動する場合は、やはり宿泊予定のホテルや、空港に事前確認されることをお薦めする。
2)海外出張の場合
中国国内出張とは異なり、外国籍従業員は中国国外出張する場合、出入国管理局が発行した居留許可受理書でもって搭乗手続きを行うことはできず、必ずパスポート原本で搭乗手続きを行わなければならない。よって、居留許可証書手続中の外国籍人員の海外移動は一般状況下では不可能である。
2.居留許可と就業証との時間的衝突に関する調整
新出入国法公布以前には、明確な「不法就労」の概念がなかった。今回の新法において「三非外国人」(不法入国、不法滞在、不法就労している外国人)に対する厳格な取締り・罰則の強化については、多くの外資企業及び外国従業員は十分に認識し、更なる重視が必要である。厳格に法に則り、就労証及び就労類居留証書を申請しなければならない。
しかし、新出入国法の規定をみると、就労証及び就労居留許可の延期手続き期間において、一定の衝突が存在している。
1)「外国人在中国就労管理規定」によれば、外国人の労働契約を更新、延長する必要がある場合、使用者はもともとの労働契約期間満了前30日以内に、労働行政部門に対し雇用期間の延長申請を行い、その批准を経て、就労証の延期手続きを行うこととなる。就労証の有効期間と労働契約の有効期間は一致しているので、従い就労証の延期手続きも、就労証期間満了以前30日以内に申請しなければならない。
2)新出入国法の規定によれば、中国国内に滞在している外国人が居留許可期間の延長を申請する場合、居留許可証書の有効期間満了の30日以前に、居留地の県級以上の地方人民政府の公安機関出入国管理部門に対し申請しなければならない。
3)よって、厳格に上記の両法律の規定に沿うと、就労証の延期と居留許可の延期には手続時間の衝突が生じることとなる。この矛盾について、当所より上海の出入国管理局に確認したところ、当局からは、「目下、居留許可の延期申請が居留許可証書の有効期間満了前の30日をきっていても完全に申請を却下するものではない。ただし、居留許可の残余有効期間が15営業日以上であることが望ましい」との回答であった。この回答に沿えば、規定期間内に就労証の延期及び居留許可の延期手続きを完了させることは可能である。
ただ、上記の確認結果は、新出入国法施行の初歩段階の実務操作にすぎず、今後変化が生じる可能性は排除できない。実際の手続きに際しては、手続窓口担当者の解釈が優先される局面もあるだろう。現時点においても、窓口担当者が厳密に法律条文を引用した場合、有効期間満了まで30日をきった居留許可の延期申請については一切受理しないと判断する可能性も排除できない。居留許可の延期申請を拒絶された場合、外国人本人は元の居留許可期間満了後、出国を余儀なくされる。出国を拒否すれば、すなわち不法滞在となり、違法行為に該当することとなる。
新出入国法及び新管理条例の公布に伴い、外国企業及び外国人個人が受ける影響は上記の内容に限られものではないと考える。さらに、関連企業や外国人個人に対し有効な指示的効果を与えるためには、法律規定から具体的な操作にいたるまで、さらに詳細な文書の制定と公布が必要であろう。従い、今後においても外国人出入国関連の規則制度の動向には注意を払っていく必要があると考える。
以 上