上海の大学入試事情
- 投稿日:2005.06.28
- 駐在員レポート
9月から新学期が始まる中国では6月に大学入試が行われる。今年の受験者数は中国全土で867万人と過去最高を記録した。一方、募集人数は、4年制の大学本科では230万人、3年制の大学専科(日本の短大のようなもの)を合わせても475万人。日本に比べれば、まだまだ狭き門と感じるが、中国人に話を聞くと、以前に比べると大学に入るのはずっと簡単になっているそうだ。しかし、そんな中国の大学入学事情を調べてみたところ、中国の大都市と地方の格差、一人っ子世代の台頭などの社会の実情を反映したさまざまな現象が見られることがわかった。
中国の大学入試制度の概要
まず、中国の大学の入試制度について簡単に紹介したい。中国では「全国高等院校招生統一考試(通称「高考」)」と呼ばれる全国レベルの統一試験が一斉に行われる。基本的に、受験科目は「数学、国語、外国語」+「総合科目」(ほとんどが選択式ではなく記述式)という構成になっており、この1回の統一試験の点数ですべての大学の合否が決まる。
優遇される上海の受験生
興味深いことに、同じ統一試験でありながら、上海市の受験生は2つの優遇を受けている。一つは試験問題、もう一つは合格点である。まず、今年の大学入試では、全国の一部の省と直轄市(合計14箇所)では、「全国版」の共通問題以外に「地方版」の試験問題でも受験できるようになっている。上海市にも「上海版」の試験問題があるが、「全国版」に比べ簡単だといわれていることから、今年受験した約11万2千人のうち、ほとんど(今年は98.3%)がこれを選択している。さらに、上海などの大都市には「都市住居者優先受験制度」があり、上海に住んでいる受験生が地元の大学を受験する場合、上海以外に居住する受験生より低い点数で合格できるようになっているそうだ。
これは一種の地元優遇政策なのであろう。このような制度の恩恵を受けていることもあってか上海市の受験生の合格率は高く、2004年の上海市の受験生の合格率は84.59%になっている。
過熱する大学入試フィーバー
上海の受験生にとっても、大学入試は人生を大きく左右する一生の一大事。また、今の受験生は一人っ子世代であり、親や周囲からの期待も相当なものである。受験当日も、親が会場まで付き添い、試験が終わるまで会場の外でひたすら待ち続けるといった光景も見られた(写真)。また、地元テレビや新聞でも大学入試は毎日取り上げられ、社会全体で受験生を応援しようといったキャンペーンも大々的に行われた。
例えば、
- 試験当日は、騒音が受験の妨げになるという理由で、会場付近の道路では、自動車やバイクのクラクションの使用禁止もしくは全面通行止めといった措置がとられた。
- また、工事現場については、会場周辺だけではなく、受験生の家の近くでも「工事の音がうるさくて勉強できない」といった苦情があれば、「大学入試ホットライン」という特設電話で苦情を受け付け、担当者が現場に出向き工事をやめさせるといったことが行われていた。
- また、受験日当日は、上海市内のタクシーのうち6000台が受験生優先に振り分けられ、
- 一般の路線バスにも「受験生優先席」が設置されたなど、例を挙げればきりがない。
このような現状を見ると、外国人である私にはいささか行き過ぎのように思えるところもある。
終わりに
日系企業が中国に進出する時には、優秀な中国人人材を確保できることが事業の円滑な運営につながる。最近では、上海に進出する企業も、上海人ではなく外省人を雇用する割合が増えている。地元の受験生を保護するためのこのような大学入試の施策や社会現象はともすれば将来の上海にとってはマイナスに作用するのかもしれない。
参考
- 新民晩報 6月4日、7日
- 新聞晨報 6月5日、6日、7日、8日、9日
- 2005年の日本の大学入試センター試験の志願者は56万9950人。
大島康範