日系企業中国現地社員の給与動向について
- 投稿日:2006.03.30
- 駐在員レポート
日系企業にとって、現地社員の契約更新は旧正月前後と4月に行われることが多い。
金額、昇給率が優秀な人材が確保できるかどうかを左右することになるが、NNA中国では毎年「日系企業中国現地社員給与動向調査」を実施し、2005年11月現在の給与動向について調査を行い、翌年3月にその集計結果を発表する。以下今年の傾向について紹介する。
平均給与
日系企業に勤務する中国人社員の2006年度の平均月収は「事務系一般職」で2,005元(1元≒15円)、「技術系一般(エンジニア)」で2,610元、一般工員で854元となった。
事務系一般の2,005元は予想より低い感じがするが、これを年収(月収+手当て+賞与)ベースに換算すると31,550元となり、月収(基本給)のほかに手当て、賞与等(詳細は後述)も相当額支給されているといえる。
事務系管理職(総経理クラス)の平均月収は13,935元、技術系管理職(工場長クラス)で5,604元となっている。
職位別で比較的高い水準にあるのが「秘書」で、平均月収3,209元。これは日系企業の場合「秘書」は総経理の単なる秘書ではなく、通訳兼対外交渉担当という重要な役割があるため高い給与になっている。
地域別では、事務系、技術系とも最も高い水準にあるのは上海地域で2,713元(事務系)、3,123(技術系)で、次いで「北京・天津地区」、「広東地区」、「東北(遼寧)地区」の順となっている。
業種別では、事務系、技術系とも「情報・ソフトウエア・情報処理」が最も高く、4,000元(事務系)、4,650元(技術系)、次いで、事務系では「金融・保険・証券」、「*サービスその他」、「運輸・倉庫」、「貿易・商社」の順、技術系では「貿易・商社」、「サービスその他」、「石油・化学」、「電気・電子」の順であった。「繊維・アパレル」は事務系、技術系とも年収が低かった。(*「サービスその他」とは主にコンサルタント、メディア等)
その他「駐在員事務所・支店」等の従業員規模が50人以下の企業が高い水準を示し、「日中合弁」では平均年収は低い傾向となっている。
手当、賞与
支給される手当では、最も多いのが「残業手当」で87.8%の企業が制度化している。
また、「出張手当」は73%、「通勤手当」、「食事手当」がともに55.7%となっている。
意外なことに、上海地区では、「残業手当」が制度化されている企業が73.2%と平均を下回っている。これは上海が営業の拠点としての役割を果している場合が多く、社員もセールス業務に従事している割合が他地域より高いため、残業を制度化するのではなく歩合制等で給与を支給していることが原因のようである。一方、工場労働者の多い「江蘇・浙江」では「残業手当」は90.7%の企業で制度化されており、地域による違いが伺える。
中国らしい「手当」としては、現物支給的要素の強い「月餅購入券」「誕生日ケーキ券」等中国の国有企業の習慣を取り入れている企業も見受けられる。
賞与については、約9割の企業が支給しており、「事務系一般職」で3,782元、「技術系一般」で5,031元、「一般工員」で1,692元で概ね月給の1ヶ月から2ヶ月といったところである。支給月は春節前の1月がもっとも多く次いで年末の12月、7月の順となっている。
昇給
2006年度の昇給率は、平均で「事務系一般職」7.6%、「技術系一般職」7.3%、「一般工員」6.9%となっており、地域別では事務系で上海地区が9%、技術系では北京・天津が10%となっている。
昇給の実施状況は、調査対象企業の約8割が昇給を実施しており、「北京・天津地域」の実施率が最も高く88.4%、
次いで「江蘇、浙江地区」、「上海地区」、「東北(遼寧)地区」、「広東地区」の順であった。
また、業種別では「機械」の約9割で昇給を実施しているのに対して、繊維・アパレルは7割程度にとどまっている。「機械」で昇給実施が高かった理由は、中国特需により工作機械、建設機械が好調であることにより企業の業績が良いことが原因にあるようだ。
日系以外の外資系との比較
上海にある日系企業と他国の外資系企業とで給与面でどのような違いがあるのかについて、最近出された調査結果があるので紹介する。
中智人力資源管理諮詢公司が行った「2005年上海地区給与調査報告」によると、上海の日系企業と欧米等企業とを比較した場合、日系は現場の一般工員に手厚く、欧米企業は管理職や技術職(エンジニア)に厚いことという傾向があることがわかったという。
上海日系企業の高卒での年収は26,000元で、大専(日本の短大)卒で31,000元となっている。これを欧米系と比較すると、それぞれ高卒で50%、大専で15%上回っている。しかし、大学の本科(4年生)卒、修士以上の学歴の場合は、欧米系より日系は25%低い結果となっている。
上記NNAの調査でも、事務系一般職の年収(月収+諸手当+賞与)が31,550元に対して、総経理は198,338元でその差はおよそ6倍程度であるが、欧米企業では10倍以上となる場合がほとんどである。よって、高級人材の日系企業からの離職率が30%に達し、多くが欧米企業に流出しているという。
今後日系企業は、いかに専門技術者を持っている高級人材の引き留めを行うかが課題となっているようである。
職位別給与額
区分 | 年収 | 月収(基本給) | 賞与 |
事務系一般 | 131,550 | 2,005 | 13,782 |
技術系一般(エンジニア) | 43,882 | 2,610 | 5,031 |
管理職(総経理クラス) | 198,338 | 13,935 | 23,745 |
管理職(工場長クラス) | 85,916 | 5,604 | 9,538 |
秘書 | 52,725 | 3,209 | 6,268 |
一般工員 | 14,881 | 854 | 1,692/td> |
地域別給与額(事務職一般、技術系一般)
事務系一般 | 技術系一般 | 一般工員 | ||||
年収 | 月収 | 年収 | 月収 | 年収 | 月収 | |
北京・天津 | 35,266 | 2,166 | 47,977 | 2,632 | 13,263 | 721 |
上海 | 41,294 | 2,713 | 49,348 | 3,123 | 21,654 | 1,185 |
江蘇・浙江 | 24,877 | 1,524 | 39,369 | 2,408 | 14,874 | 879 |
遼寧 | 28,049 | 1,843 | 41,205 | 2,576 | 12,952 | 818 |
広東 | 28,496 | 1,811 | 45,175 | 2,623 | 13,077 | 746 |
地域別昇給の有無・昇給率
区 分 | 昇給を実施した企業の割合 | 職位別昇給率 | |||
事務系一般 | 技術系一般 | 総経理 | 一般工員 | ||
北京・天津 | 88.4 | 7.0 | 10.0 | 10.0 | 10.0 |
上海 | 82.1 | 9.0 | 9.0 | 15.0 | 8.0 |
江蘇・浙江 | 86.0 | 8.0 | 7.0 | 8.0 | 7.0 |
遼寧 | 81.6 | 4.0 | 8.0 | 6.0 | 8.0 |
広東 | 76.0 | 7.0 | 7.0 | 6.0 | 5.0 |
出展:
- NNA「日系企業中国現地社員給与動向調査
- 中智人力資源管理諮詢公司「2005年上海地区給与調査報告」
- 中国研究生人材ネット
福島県上海事務所 安達和久