駐在員雑感(第53回)「上海蟹」
- 投稿日:2009.01.05
- 002:職員コラム
「上海蟹」とは、正式には「シナモクズガニ(中国藻屑蟹)」といいい、中国の長江流域を主な生殖地にしていることからこの呼び名がついたそうです。この蟹は雑食の淡水性蟹で、9月から12月頃蘇州近郊の陽澄湖や無錫太湖で採れるものを特に上海蟹(大閘蟹)と呼ばれ珍重されます。
上海蟹の生態的特徴は①天性的に戦闘を好み、食物が不足すれば互いに殺し合うことも辞さない性格。②侵略的外来種として古くらから有名であり、欧州では20世紀初頭に既にドイツで確認されており、以後、北欧・ロシア、イギリスや地中海沿岸部でも発見されています。日本でも外来種被害防止法に基づく特定外来種に指定されており(2006年2月1日施工)生きた個体の日本への持ち込みは厳しく規制されています。IUCN(国際自然保護連合)の「世界の外来種侵入種ワースト100」にも名前を連ねています。
しかし、そんな「上海蟹」も料理にしてしまえばこの上なく美味な食材として有名です。この時期になると上海市内の中華料理店やスーパーなど至る所で上海蟹をよく見かけます。「10月の雌11月の雄」(中国では「九雌十雄」と旧暦で表現されます)雌はお腹に抱いた卵(内子)がほくほくして美味く、雄はねっとりとした白子が美味しいとの評判です。秋が上海蟹の季節と言われる所以は、夏に盛んに動いた蟹が北からのシベリア風の寒さにより急に動かなくなり、蟹味噌や肉が一気に蓄積されるためです。
食べ方は、チャーハン、野菜との炒めもの、豆腐と煮込んだもの等々、多様な調理法がありますが蒸して食べるのが一般的です。 やはりうまくて大人気の上海蟹だけに近年偽物も多く出回っているのも事実です。特に産地として有名な陽澄湖産と偽って売られている蟹が多いようです。実際には陽澄湖産の上海蟹の出荷高は500トン程度なのに、販売高は10倍の5000トンにのぼるとの報道もあるぐらいです。近年は〝上海蟹〟ブランドを守るために本物の上海蟹には、蟹の爪に指輪(「原産地域商品保護標識」という)をつけ、個体を識別しているとのことですが抜本的な解決には至っていないようです。
また、近年、「上海蟹」の産地である陽澄湖では、環境汚染の問題も深刻化してきています。湖水の富養化が進みアオコ(藻の一種)が大量発生し、蟹の成育に支障を来しています。原因は工業廃水や生活排水流入によるものとのことです。
「偽装」「環境汚染」と聞くと、昨今の中国を象徴するネガティブな言葉で、日本人観光客の中国離れを誘因しているのも事実です。しかし、上海に来る出張者・旅行者のほとんどが「上海に来ると元気になる」と言って日本に帰ります。これは、もっともっと豊になりたいという強烈に前向きな姿勢が中国人からも上海の街の雰囲気からも感じ取れるからだと思います。経済が成熟し閉塞感が強い日本では感じることができない〝暑苦しいほどの活気〟が上海にはあるのです。百聞は一見に如かず。日本の皆さんも「中国なんて・・・」と言わずに、是非、一度上海に来て見て下さい。いろんな意味で中国に対する見方が変わり、元気になって帰れること請け合いです。