駐在員雑感(第21回) 「ゴルフ練習場での出来事」

  • 投稿日:2006.07.28
    • 002:職員コラム

海外での生活はとかく運動不足になりがちである。
私にとっての運動不足解消はゴルフである。といってもコースに出るわけではなく、もっぱら練習場通いだ。
私が通う練習場は、夏は早朝6時から夜12時まで営業しおり、価格は1箱30球入りで20元(280円 1元≒14円)、施設使用等はかからない。週末ともなればいつも満員となる。上海のゴルフ人口の増加を肌で感じる瞬間である。

駐在後2年間、通い続けているせいもあり、係員のうち数人とは顔見知りとなり、「アンダーシェンション ニーハオ!」(安達さん こんにちは) と声をかけてくれる。中国では知り合いになると対応が他の客とは違う。すぐにバックを運んでくれたり、タクシーを優先的に配車してくれたりする。
この日は、いつも親しくしている係員がなんと「内緒だ」といって、私に1箱ボールをサービスしてくれた。私は、そのサービスを何気なく受け、帰りがけに、その係員にチップとして10元を渡した。しかし、帰りのタクシーの中でふと思った。「これって、もしかして犯罪??」
中国の商売では、よく「キックバック」があると聞く。今回、私はこの練習場で彼に「キックバック」したことになるのではないだろうか?

私は、純粋に彼のサービス、つまり、ボール1箱のサービスを受けたことではなく、バックを運んでくれたこと、飲み物を運んでくれたこと等に対するチップとして10元を渡した。しかし、見方を変えれば、1箱はただでもらった代わりに、係員に10元を戻したともとれなくはない。
この係員も、キックバックを期待して私にサービスしているのではない、たまたま、その日は彼のふるさとの話に花が咲き、彼も気分が良かったのでボールをサービスしてくれたのだと思う。決して、私服を肥やすために、私を利用して10元を得たのではないだろう。
しかしゴルフ場側からすれば、20元損したことになってしまう。
では、なぜ、このようなことが起こるのか?問題があるとすれば、この練習場のボール管理方法なのかもしれない。練習用のボールは、1箱30球入ったケースが、打席の後ろに無造作に積んであり、客の使用数は係員に任せきりで、しっかりした管理はしていない。客が勝手にボールを使用してもわからない状態であり、係員と仲良くなれば、いくらでもごまかしができてしまう状況である。係員の裁量の範囲が非常に広いのである。
ゴルフは、紳士のスポーツ。よって、練習場側も客は紳士。ごまかす人はいないという性善説に立っているのかもしれない。

とある雑誌に、中国でのビジネス上発生する公金横領などの不正つまり「中国リスク」の特徴のひとつに、「その発見の難しさ」があるとの記述があった。
発見が難しいため、往々にして日本人はだまされやすいということである。発見できない理由は、①言葉の壁や商習慣の違い、②内部監査の体制の不備、③日本人の性善説経営の過剰適用などなど。
今回のゴルフ練習場のケースにも当てはまるような気がする。もし、この練習場のボール管理がより厳格であり(内部監査体制の整備)、すべてを係員に任せず、管理者を配置するなど(性善説の放棄)すれば、私の知り合いの係員は、私にただでボールをくれることはできなかったであろう。

あの優しい係員の行為を、責めるわけではないが、もし、これが会社経営となった場合は、上記3つのことをしっかりと実践してゆく必要があるのは当然のようだ。
一方、身動きができないように管理を厳しくするのも逆効果とも言われる。どの世界でもバランスが大切のようである。ともあれ、私にとっては、性善説を捨てるということ、人を信じられないということが何よりもつらい。
しかし、ここは中国。そして、すでに性善説を捨て去った自分がここにいるのも事実である。

2006年7月28日
福島県上海事務所 安達和久
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