中国の地熱エネルギーの利用について

  • 投稿日:2013.01.22
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

21世紀に入ってから、石油と石炭を代表とする伝統エネルギーの枯渇問題と環境対策が世界各国にとって重要な挑戦となり、清潔で再生可能なエネルギーの利用が喫緊の課題となっている。

地熱エネルギーはソーラー発電、風力発電及び潮汐発電と並んで「四大再生可能資源」と呼ばれ、現在の科学技術環境では地熱エネルギーの利用はもっとも利用しやすい再生可能エネルギーとなっている。中国は経済社会の発展に伴い、特に電力をはじめとするエネルギーの需要は毎年増加し、エネルギー供給の構造改革と再生可能エネルギーの利用に対する要望も日増しに高くなっている。このような背景において、近年以来、地熱エネルギーに対する利用が大きく注目されている。2006年1月1日に「中華人民共和国再生可能エネルギー法」の公布に伴い、地熱エネルギーは再生可能エネルギーの発展する重点対象として定められた。「国家”第十二次5ヶ年計画”科学技術発展計画」では、科学技術部が地熱エネルギーの研究開発と実用化の責任部門として、地熱エネルギーの利用推進を掲げた。

地熱は、地球内部の熱源に由来する熱エネルギーで、常に地球内部の発生源である溶融マグマや放射性物質などから地表に向かって流れている。 この熱はマントルを通って地表に達するが、主に熱水(或は高温水蒸気)、高温液体型のメタンガス堆積盆地、高温岩石、高温マグマという四つの形式で現れる。

現在、地熱エネルギーの利用は主に熱水および高温水蒸気による地熱発電と地熱の直接利用である。また地熱水(高温水蒸気)はその温度により、高温型(摂氏150度以上)、中温型(摂氏90~150度)及び低温型(摂氏90度以下)という三つのタイプに分かれる。中国は中低温が中心とする地熱資源の大国である。中低温の地熱資源は全国各地に分布し、全世界の10%を占めていると推測されている。下記の表は中国の地熱資源(熱水)の分布と利用状況を表1で表している。

中国の地熱資源(熱水)の分布と利用概要(表1)
表 1.jpg
このほか、中国の遼寧省、吉林省、四川盆地及び内モンゴルの顎爾多斯(オルドス)地域には中低温の岩石資源も非常に豊富である。

地熱発電は、地熱によって生成された150℃以上の高温水蒸気を利用し、発電機の蒸気タービンを回すことにより電力を獲得する発電方式である。地熱発電は、地熱という再生可能エネルギーを活用した発電であるため、運転に際していわゆる温室効果ガスの二酸化炭素の発生が火力発電に比して少なく、燃料の枯渇や高騰の心配が少ない。また太陽光発電や風力発電といった他の主要な再生可能エネルギーを活用した発電と異なり、天候、季節、昼夜によらず安定した発電量を得られる。

中国における地熱発電は1970年代から始まり、1970年には広東省の豊順県で中国初の実験用地熱発電所が設立された。その後、河北、湖南、江西、広西、山東、遼寧など各地にも実験用地熱発電所が設立され、ピーク時の90年代前後には13ヶ所の実験用地熱発電所が稼動し、総設備容量は2800万ワットにも達した。しかし地下水に含まれる硫化物による設備の老朽化、特にパイプの中にできた水垢による出力減少は地熱発電所の運営にとって大きなハードルになり、これにより地熱発電所の数量は90年代中期から減少し始め、現在では湖南省の灰湯、広東省の鄧屋の2ヵ所がまだ運営を続けて、商業用のチベットの羊八井(ヤンバジン)地熱発電所を含めて総設備容量は2600万キロワットに減少し、世界の地熱発電ランキングの第18位となっている。

チベットの羊八井地熱発電所は世界最高海抜で、国内で唯一商業運営している地熱発電所。標高4300メートル、チベット自治区ラサ市から90キロあまりに位置する。かつてここには緑が一面に広がる牧場しかなく、地下から噴き出す熱水が勢いよく流れ続け、湯気が一日中立ち上っていた。1974年以降、中国政府は羊八井開発を重点科学技術攻関(難関攻略)プロジェクトに位置づけ、相次いで2億元あまりの資金を投入した。チベット族と漢民族の技術者が困難に耐えながら取り組んだ結果、豊富な地熱資源の開発・利用がスタートした。1975年にチベット第三地質調査大隊がコアドリルを使用し、中国初の蒸気井を掘削した。1977年10月には、羊八井の地熱フィールドに1基目の1000キロワットの地熱発電実験用ユニットを設置した。80年代からは国内に開発されたスクリュー膨張動力装置を利用し、80万ワットのスクリュー膨張発電プラントを自社で建設した。このプラントは地下水の負荷変動が大きい時でも発電の効率が一定な程度を保つことができるので、現在もっとも採用されている地熱水発電の方式である。

現在、羊八井地熱発電所は確認済みのフィード面積が14平方キロで、水温が110℃~170℃、井戸の平均深さが1400メートルという好条件で、地熱発電実験基地として中国最大規模を誇り、世界で唯一中高温の浅層に蓄えられた地熱エネルギーを利用し工業用発電を行っている。発電所には3000キロワットのユニット8基が設置され、総設備容量は2500万キロワットに達する。2008年末の時点で、チベット向けの発電量は合計12億キロワット時に達し、ラサ市の送電網において年間送電量の45%を占めるに至った。しかし長年の運営に伴い、上記の腐蝕と水垢の問題も今後の技術課題として残る。科学技術部と国家エネルギー局は2000年からこのような問題に対応して、関連企業を引率して化学薬剤、高圧パルス水流、超音波、レーザーなどによる解決方法を探っている。このほか、高温地下水と水蒸気に含まれる放射線物質による大気汚染、地下の熱水に含まれる金属などの成分が、河川や農作物を栽培する田畑、湖沼の水質に対する水質汚染、地下水の過度抽出による地盤沈下などが懸念されるため、今後、中国における地熱発電の発展は主に人口稀少の場所、例えばチベット、青海省などに限られると思われる。

そもそも中国における高温の地熱水はチベットや雲南省など地理環境の厳しい、かつインフラ整備の遅れている地域に分布しているため、地熱エネルギーの利用は発電よりも直接利用のほうが一般的である。2010年4月にインドネシアのバリ島で開かれた世界地熱大会(5年に1回、国際地熱協会主催)には85カ国が参加した。この大会の発表した公式レポートによると、中国の地熱エネルギーの直接利用はすでに世界1位(表2参照)となり、その直接利用の内訳は表1の示す通り、主に暖房、工業利用、水産養殖、農業灌漑、温室栽培などに使われている。

世界の地熱発電容量・直接利用国家トップ1表 2.jpg0(表2)

中国での地熱の直接利用について、おおよそ下記の通りである。
① 地熱暖房
主に中国の北部で石炭の代替資源として利用されている。石炭による粉塵汚染問題の解決案として非常に有効である一方、熱水暖房の熱効率も非常に高いため、現在は淮河(中国の南北分水嶺)から北の地域に広く採用され、暖房面積はすでに500万平米を超えた。
② 地熱温室
全国に広く分布している。主にしいたけなど食用菌類、高級フルーツ及び花卉の栽培に使われる。特に花卉温室の経済性が高く、近年以来、全国各地でその面積が急増している。昨年開かれた中国共産党第18回大会で農業近代化の促進、農村の都市化との方針が定められ、これに伴い今後、農作人口の減少に伴う農業用地熱温室の利用は一層進められると考えられる。
③ 工業面での利用
紡績、製紙、木材加工、化学品精製、製革などの業界では乾燥を目的とする生産プロセスが数多くある。中低温の地熱水は低コストかつ安定的な熱源は中国の製造業にとって重要な資源だといえる。最近では脱水野菜など食品加工面での利用も増えている。
④ 水産養殖
これは低温地下水がもっとも簡単な仕組みで利用されるものである。特に冬の寒い中国北部の淡水養殖業にとって、地熱エネルギーは越冬期を過ごす重要な一環となっている。
⑤ 地熱孵化
地熱孵化は農業関連の分枝だともいえる。中国の家禽養殖業の発展に伴い、現在の電力供給はすでに大変緊迫の状況となっている。特に農村地域におけると突然停電は家禽の養殖にとっては無視してはならない問題である。このため、不安定な電力供給に取って代わって、地熱孵化による家禽養殖は今後、有望な産業として注目されている。
⑥ 温泉としての利用
日本の温泉と同じように、地熱水には多数の鉱物質が含まれている。この数年間で健康志向を目指す人が急増し、中国各地では温泉の開発ブームが沸き起こしている。

 2012年7月24日、中国国務院は地熱の利用に関する専門家会議を開き、国家エネルギー局の劉副局長は、地熱の利用は「国家”第十二次5ヶ年計画”科学技術発展計画」の重点であることを改めて強調し、地熱エネルギーの利用の深層化を促した。同会議では現在、中国の地熱エネルギーによる冷暖房の提供面積がすでに2億平米に達し、地熱発電の発電容量も2600万キロワットになったとこれまでの成績を認めた。一方、米国の地熱発電の容量はすでに300万キロワットを突破したことやアイスランドとトルコの場合、地熱による冷暖房はほぼ全建築物に利用されていることを紹介し、中国の地熱利用はまだまだ大きな余地があると指摘した。2020年までに1次エネルギーに占める非化石エネルギーの消費割合が15%に達するという中国政府の約束した目標を完成するために、科学技術部と国家エネルギー局は”第十二次5ヶ年計画”中に地熱エネルギーの利用の加速化を決定し、中国石化(SINOPEC)を経由して「国家地熱エネルギー開発利用研究および応用技術推進センター」を設立し、地熱水以外の地熱エネルギー(高温岩石、液体メタンガス、高温マグマ)の利用を視野に入れながら、中国の地熱開発利用戦略の構築、関連政策の研究、応用技術の普及、推進及び外国企業との国際協力を進めることとしている。これにより、中国における地熱エネルギーの利用は2020年までに大きく躍進できると期待されている。

以上
2013年1月20日
福島県上海事務所 上海地域経済交流アドバイザー
仲 琪

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