中国の医療機器市場の現状と外資の参入状況について

  • 投稿日:2013.03.04
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

中国はこれまでの30年間で毎年、労働人口の増加に伴い、経済が躍進的な発展を遂げた。いわゆる「人口ボーナス」は中国経済が発展してきた原動力だとも言える。しかし、中国政府のシンクタンクである社会科学院の予測によると、近年以来の生育率の下降傾向などにより、2015年にはこの「人口ボーナス」がピークを迎え、それ以降は労働力の減少と高齢者社会になる。即ち2015年は中国経済にとって重要な転換期を迎えることになる。このような背景において、今後、中国社会における高齢者人口の増加と少子化は確かなものになり、医療機器に対する需要は確実に増加すると考えられる。今回の経済レポートは中国の医療機器市場の現状および関連する外資企業の参入状況について簡単に紹介したいと思う。

中国の医療機器市場の現状
中国では近年、医療保険をはじめとする様々な医療制度に関する改革から、高齢化の進展といった人口動態の変化、医療関連サービスに対する需要などが拡大し、医療機器市場が急速に成長している。中国医療機器産業協会の発表によると、中国の医療機器市場は2010年、1,200億元(売上高)に達した。現在、中国には14000社以上の医療機器メーカーと40000社以上の販売代理店があり、市場規模は年間3000億元を突破したといわれている。中国の医療機器市場は2000年から2010年にかけて年平均28.5%増と、世界の平均8%増をはるかに上回るペースで拡大している。
国家科技部と衛生部の発表した計画によると、第十二次五ヵ年計画(2011~15年)中に中国の医療機器市場はさらに拡大を続け、2015年には10年の倍に拡大する見通しである。医療器械の取引高が新たに2000億元増える一方、出荷高が50億元を越える大型医療機器グループが8~10社前後形成するという。表_副本.jpgのサムネール画像

成長の動因には、1)13億の人口の多さ(高血圧患者は2億人、糖尿病患者は1億人)、2)高齢化の進展(2010年11月時点で60才以上が1億8,700万人)、3)国民の購買力の向上、4)政府主導の医療改革による病院関連資材の新規購入や買い替え需要などが挙げられる。また2009年4月に発表された新医療改革案では、2011年までの3年間で8,500億元(1,230億ドル相当)が農村を含む全国の医療機関の整備などに当てられた。
中国政府は医療改革や基礎的な医療保障の推進に取り組んでいるが、全般的に中国で使用されている医療機器の水準は低い。全国17万5,000ヵ所ある医療機関の大多数で使用されている設備は旧式で、更新・買い替えの需要が非常に多い。衛生部の2011年白書によると、15%は20世紀70年代前後の製品で、60%は80年代中期までの製品である。というわけで今後の10年間ないしもっと長い期間において、買い替えによる需要は極めて根強いものであり、中国の医療機器市場を支える力となると思われる。2009年に始まった新医療改革案では、政府は公共衛生体制と都市のコミュニティ(都市の住宅エリアの一区画〔小区〕)や農村における医療衛生環境の整備を年々強化していく方針を打ち出した。政府の財政支援を受けて、今後、県クラスの中小都市や郷・鎮レベル地域の中小医療機関での医療機器に対する需要は大きく伸びるとみられ、とりわけ中西部などの経済的に開発途上の地域では、政府による重点的な投資が行われる見込みである。今のところ、中国の地域医療機関における医療機器の配備水準は低い。衛生部が2010年に行った調査によると、調査対象となった2,000ヵ所余りの県病院では、設備の配置不足が目立ち、西部地域ではさらに状況は悪いという。中国政府は2011年の初め、さらに300ヵ所以上の県級病院、1,000ヵ所以上の中心郷鎮衛生院、1万3,000ヵ所以上の村衛生審における医療機器の整備を支援していくと表明した。
一方、高齢化が急速に進展している背景下、腫瘍、脳血管疾患、心臓病、糖尿病などが主な死因となっているため、これらの慢性疾患の診療設備に対する需要が一層高まっている。操作が簡便で迅速に計測できる小型測定診断医療機器は、慢性疾患を抱える患者にとって随時測定するのに便利であり、酸素発生器、人工呼吸器、血糖測定器、血圧計といった製品に対する需要は急速に高まっている。しかし中国では血圧計などの家庭用医療機器の占める割合が低い。衛生部の統計によると、2010年における中国の家庭用医療機器の総売上高は140億元で、全国の医療機器市場の総売上高の12%しか過ぎない。ちなみに海外ではこの比率は一般的に25%程度と言われている。家庭用市場にはまだ大きな発展の余地がある。
家庭用リハビリ看護機器も急速な発展期に入っている。都市部のコミュニティにおける衛生サービスの整備に伴い、多くの慢性病患者や障害者がコミュニティ内で診療を受け、在宅で治療できるようになっており、家庭向けのリハビリ看護用品のニーズが急速に増えている。家庭用医療機器の購入理由は主に、(1)患者が長期にわたり機器を使用する必要があり、購入して在宅で使用する方が、安くて便利なため、(2)プレゼントとして高齢者に贈るためである。現在、小売りの薬局店では体温計や血圧計から車椅子まで幅広い医療機器が販売されているが、これらの売上高は、すでに薬局店の総売上高の約20%に達している。なお家庭用医療機器のニーズは主に経済的に発展した地域に集中している。

中国医療機器市場に対する外資企業の参入状況
 中国の医療機器市場の規模は急速に拡大しているが、医療機器分野では国内のリーディング企業が少なく、医療機器企業1万4,000社のうち99%が中小企業であり、売上が1億元を超える企業は200社弱で研究開発能力は非常に乏しい。中国の医療機器産業の研究開発費用は平均で売上高の3%にすぎないが、先進国では10%以上に達する。中国医薬ネットのコメントによると、医療機器分野における中国企業と外国企業の差は15年だという。2010年の中国医療機器市場の売上構成を見ると、ハイエンド製品が25%、ミドルエンドとローエンドの製品が75%を占めた。これに対して先進国の構成は通常、ハイエンド製品が55%、ミドルエンドとローエンドの製品が45%である。しかも中国医療機器市場の四分の一を占めるハイエンド製品の70%以上はGE、フィリップス、シーメンスなどの外資企業が占めている。映像診断設備や対外診察設備の場合、外資企業の市場占有率は80%以上にも達する。外資企業の場合、医療機器の分野においては高性能超音波診断機器磁気分析装置、MRI、CT、ポリグラフ、睡眠分析装置、モニターリング設備、医療器材の分野においては口腔関連、義肢、人工器官及び植え込み関連を中心に事業を開拓している。

 GE医療は1979年に中国に進出した。1991年に中国で1社目の合弁企業である航衛GE電気医療系統公司を設立し、2010年末時点で、GE医療は中国に複数の独資企業と合弁企業を有しており、従業員数は4,500人余り、中国における年間売上高は10億ドルを超えている。 GE医療は中国に7か所のグローバル生産拠点を設立している。北京にはCTスキャンシステム、MRI画像診断システム、X線画像診断システムの工場があるほか、上海にはライフサイエンス分野のR&D分野拠点、江蘇省無錫には超音波機器や患者モニターリング機器工場、浙江省には濾紙の生産拠点、深センには医療用マスクの生産拠点がある。このうち北京GE中国医療工業パークは、敷地面積が6万平方メートルあり、GE医療にとって世界最大の生産・研究開発拠点の1つである。 GE医療が中国で展開している業務は幅広く、研究開発、設計、調達、生産、販売、マーケティング、サービスなど各分野にわたる。GE中国研究開発センターの研究員の数は700人以上に上る。
2011年2月、GEは中国の地域医療市場をターゲットとする「春風計画」を発表した。これは今後3年間で、中国農村部に全面的な医療サポート体制を構築し、7,000か所以上の県級病院と母子保健院、5万ヵ所以上のコミュニティの衛生サービスセンター、郷鎮衛生院にGEのサービス支援網を拡大するという計画である。2011年7月、GE医療はX線製品部門のグローバル本社を中国に移し、今後3~5年内で研究開発を強化し、中国市場向けの新製品を20種以上開発、このうち70%を地域医療市場向けに展開させると発表した。

 シーメンス医療は中国内には上海、江蘇省無錫、広東省深センなどに6社を抱え、従業員数は3,000名以上。中国市場はもとよりアジア、世界に向けてCT、MRI、X線機器、超音波機器、聴力機器、分析機器など多くの医療製品を供給している。 中国はシーメンス医療が最も重視している市場の1つであり、上海シーメンス医療機器有限公司(SSME)はシーメンスがドイツ以外に設立した唯一のCT研究開発・生産センターである。SSMEはシーメンスにとって世界3大「ヘッドクオーター・サポートセンター」の1つ(残り2ヵ所はドイツと米国)であり、アジア太平洋地域のユーザーに技術サービスを提供している。 シーメンスは2006年から中国で「SMART」計画を実施している。つまり簡単で使いやすい(Simple)、メンテナンスが容易である(Maintenance friendly)、価格が適切である(Affordable)、信頼でき耐久性がある(Reliable)、迅速に発売できる(Timely to market)製品の提供を目指す計画である。シーメンス中国研究院13で行っている研究事業の半分近くがSMART戦略に関連するものである。現地化はシーメンスがSMART戦略を実現する上で重要な方針であり、シーメンスと中国現地の医療製品販売企業が提携し、代理店が取引先を開拓している。2008年10月、初の「シーメンス新農村医療モデルセンター」が陝西省に設立された。2007年5月にはシーメンス、著名な医学部のある上海同済大学、ドイツ大手の私立病院Asklepios Kliniken病院の提携で、上海中徳友好病院が設立された。総投資額は10億元に上る。

 シーメンス、GEが中国の地域医療市場に進出した後、フィリップスも2009年末に、今後5年間で5,400万ドルを投資し、蘇州にフィリップス医用画像装置の中国拠点を設立、廉価型設備を生産することで、中国のミドル・ローエンド市場に進出すると発表した。 フィリップスはすでに2004年、中国企業の東軟集団と合弁会社を設立し、廉価型のミドル・ローエンド医療製品を提供していた。フィリップスは2008年4月、さらに深セン市金科威実業公司を買収し、蘇州フィリップス ミドル・ローエンド研究開発製造センターも設立、多品種の製品からなるサービス体系を構築した。
中国の農村医療市場に対しては、フィリップスは独自の販売体系を構築し、20都市以上の中・小規模都市への進出を果たしている。フィリップスは主に寄付や医療に関する知識の普及啓蒙などの社会活動によってミドル・ローエンド市場への参入機会を得ようと考えている。

 フィリップスと同様、その他の海外大手専門医療メーカーも企業M&Aを通じて中国市場への進出を図っている。統計によると、2011年の一年間で中国の医療機器領域における企業M&Aは5件で関連の買収金額は96.4億元に達した。2012年1月から10月の間に企業M&Aの案件数は9件で関連する金額は83.7億元に達した。たとえば米国のMedtronic社とStryker社はそれぞれ2012年11月と2013年1月に、59億香港ドルと8.16億米ドルをもって中国最大な骨疾患用機器製造企業2社(常州創生、常州康輝)を買収した。専門家は、わずか2ヶ月の間に中国最大な骨疾患用機器製造企業2社を買収されるということは、米国資本がこの市場を独占しようという意向がかなり著しいと指摘した。その理由というのは、中国社会の高齢化の進展により、骨系統疾患の病人が大幅に増加しているのだ。国際骨疾患基金会のデータによると、現在、中国には50歳以上の骨粗しょう症の患者が7000万人で、2020年には関連の医療費用は125億米ドルを超えると予測されている。

 企業M&Aのほか、中国の医療機器市場に対する外資の進出は次の両方面でも現れている。まずは業界のトップメーカー、例えばGE、Karl Storz、Covidienなどは研究プロジェクトの設立やR&Dセンターの開設により、中国エリアでの事業展開を積極的に推進している。Covidien社は2016年までに中国地域における売上が5億米ドルに達するという目標を実現するため、2012年8月に上海にR&Dセンターを設立した。このR&Dセンターはすでに100名以上の従業員を持ち、これからはハードとソフト関連の開発者を300人雇用する予定だ。これと同時により多くの外資企業は中国の基本医療機器市場に注目し始めた。ハイエンド製品にこだわらず、農村市場を目標とするミドル、ローエンド市場の開拓にも力を入れている。たとえば世界最大な医療映像システム機器製造会社のCarestream Health社は中国戦略を調整し、主な開拓重点を中国の郷、鎮などの基本医療市場に据え、新医療改革案のおかげで数多くの地方に知名度を上げ、良い成績を上げた。日本企業も中国の地方市場やミドル市場に力を入れている。たとえばJapan LifelineやRionなどもある程度の成果を取得した。中国商務部の報道によると、Japan Lifeline社はすでに心臓検査設備と心臓病治療用のカテーテルの中国国内販売許可を取得し、今年から上海、山東及び河南省で本格的に販売する予定だ。Rion社も今年から中国に補聴器を輸出すると伝えられている。
中国経済の発展に伴い、国民の生活水準は大きく向上している。長生きかつ健康的な生活が求められている一方、高齢者人口の急増も膨大な市場空間をもたらした。中国のローカルメーカーも積極的に技術レベルの向上と市場の開拓に力を入れている。例えば家電メーカーのTCLグループは伝統的な家電製造業を続けると同時にTCL医療集団を設立し、X線検査設備、高周波設備、DSA、CT、MRIなどのハイエンド医療映像診断設備の生産と販売を始めた。これはシーメンス、富士フィルムに続いて他の領域から医療機器領域に参加するグループ企業である。
中国政府も国内の医療機器メーカーの成長に力を入れている。2012年国家発展改革委員会は中国の医療機器産業のレベルアップを目指すため「産業振興と技術改造プロジェクト」を含む三つのプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトから提供される資金は15億元で主に医療機器領域における新製品と新技術の応用を対象としている。このほか、商務部、工業信息部、科技部と衛生部もそれぞれ中国のローカル医療機器メーカーの育成を促進する方策を打ち出した。積極的に進出する外国企業と健やかに成長するローカル企業による競争で中国の医療機器市場はより一層の活気を呈するに違いない。
以 上

2013年2月28日
福島県上海事務所 上海地域経済交流アドバイザー
仲 琪

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