上海の半導体産業

  • 投稿日:2005.12.28
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

ここ数年、上海周辺地域は「中国のシリコンバレー」と呼ばれることがある。それは、1997年にNECが中国の国家プロジェクトとして半導体工場を建設したのに始まり、モトローラ、SMIC(中芯国際集成電路)が2001年から創業を開始するなど、世界の大手メーカーが次々と進出し、総投資額は100億ドル以上にもなり、それに加え、中国市場の成長が見込めるところから投資ブームが続くことが予想されるからである。

今のところ中国のウェハ技術の水準は世界の最先端とほぼ同レベルに達し、現在、中国国内では8インチと12インチウェハを製造する自動ラインがNEC、SMIC、GSMC(宏力半導体製造)、モトローラなど全部で17ラインあるが、そのほとんどが上海周辺地域に集中している。特に8インチウェハの生産量が現在毎月16万枚にも上り、全国生産量の3/4を占めている。

上海集積回路工業協会によると、上海市には設計企業が70社、生産企業が7社、封装テスト業30社、ICチップ生産企業24社、設備・材料メーカー30社があり、そのうち、合弁を含めた外資系企業は52%を占める。設計水準は以前の0.25μから0.18μさらに0.13μまで向上し、製造水準も0.13μまで向上している。これは上海周辺地域のウェハ産業のクラスター効果であろう。

また、芯華と展訊の台湾系2社は今年すでに2.5Gと3G携帯電話の処理ウェハとTD-SCDMAの基礎ウェハの開発に成功し、これは国際的に見てもトップレベルの製品で上海シリコンバレーの代表製品となるに違いない。

上海市内では張江ハイテクパークを中心に半導体企業の集積が進む一方、隣接する江蘇省でも台湾系企業を中心とした半導体関連の集積を形成している。特に蘇州新区、蘇州工業園区、昆山開発区、呉江開発区を抱える蘇州市はその発展が著しい。蘇州新区および蘇州工業園区には世界の大手企業が進出し、そのほとんどがIT関連企業である。半導体関連だけでも米国のAMD、FAIRCHILD、モトローラ、日立半導体、フィリップス半導体、サムソン半導体などがある。特に台湾からの投資は各国の中で最も多く、台湾のITトップ20社のうち16社は蘇州に投資している。

もちろん進出するのは半導体メーカーだけではない。半導体製造設備メーカー、部品メーカー、半導体商社など、これまで香港のエージェントを通じて販売をしていたところが多かったが、次々と上海に現地法人を設立し本格的に中国事業を始めるところが増えている。また、既に進出している企業も増資するなどして中国事業を強化する動きが見られる。進出の理由は取引先である半導体メーカーが中国事業を拡大しているため、頻繁にメンテナンスが必要な機械のサポートを要求されたことによるところもあるが、今後の中国半導体市場の成長を見込んで生産体制および販売体制を確立し、この地域を中心に進出が続く日本、台湾、米国、韓国のメーカーとの新たな取引を期待している企業も多い。

半導体用金型メーカーのアピックヤマダ(長野県)は、すでに山東省および安徽省に合弁会社を設立しているが、海外の最重要拠点という位置づけで2003年5月上海に100%子会社を設立した。

各メーカーが中国に進出するのは、中国は他国に比べ生産コストが低く、上級人材が豊富という利点もあるが、今後順調な成長が見込まれる中国半導体市場に対し早急にシェアを確保する必要性があることが一番の理由のようだ。

しかし集積が進む上海周辺の半導体産業にも問題点がある。それは、中国の地場産業の半導体裾野産業が揃っていないことやIC設計のレベルが遅れていることである。半導体製造には、材料やフレーム、ガスなどの産業も不可欠であるが、昨年末でそうした業種は10社程度しかなく、大部分を輸入や海外での加工に頼っている。また設計についても、現在ある69社のうち39社が外資企業であり、規模も技術レベルも外資企業のほうが上である。現地の外資大手メーカーはほとんど海外の設計企業もしくは現地の外資設計企業からの注文を受けており、現地の設計業を育成するに至ってはいない。

上海市政府はこれらの問題を解決するため、積極的に外資を誘致し、先端技術を地場の中小企業に技術移転することにより技術レベルの向上を図り産業を発展させようとしている。

しかし、国外各社ともいかにしてコアの部分を自国に残すかという課題を抱えていることも事実である。

台湾政府は、これまで大陸への直接投資については、500万ドル以上、8インチ以上のウェハは不可としてきた。しかし今年8月に①台湾に生産開始から6ヶ月を経過した12インチの半導体工場があること、②大陸で生産する8インチウェハは0.25ナノメートル以上であること、という2つの条件をつけて大陸への進出を許可することとした。

米国や日本などもワッセナー協約により先端技術を中国に出すことは制限し、最先端から一、二世代遅れたものに留めておきたいという意図がはたらいたり、中国市場では民生品の需要が多いため、最先端技術でなく量産に向いた技術を出しているという傾向も見られる。

このように技術移転には各国間の様々な利害が交錯するが、華虹NECの島倉総経理は、「これまで、PCの市場が米国であれば米国が主導権を握ってきたように、マーケットがどこにあるかで主導権を握る国が決まってくる。」という。
このように考えると、中国の地場の技術がキャッチアップし、マーケットが成熟して来た場合、欧米、日本、台湾、韓国が上位を占める現在の構図が変わる可能性はある。これまで先端製品のほとんどが欧米や日本で作られてきたが、 今後、上海を中心とする華東地区においても上流製品の生産クラスターが形成されるため中国のシリコンバレーと呼ばれる上海周辺地域はアジア最大の半導体産業基地になるに違いないと思われる。

出典:

  • 「東方ネット」
  • 「中国電子産業ネット」
2005年12月28日
福島県上海事務所
仲 琪
(本文は、グローバルふくしま(NO.104)に寄稿掲載したもの)
-->