中国における日本企業の社会貢献活動について

  • 投稿日:2007.09.21
    • 003:上海地域アドバイザーレポート

中国経済の発展に伴い、製造業を中心とする日本の大手企業のほとんどが、中国への進出を果たしているが、中国のWTO加盟をきっかけとして、これらの大手企業の経営戦略は、中国を単純な「生産基地」として捉えるのではなく、中国を「マーケット」として重視する戦略に変わってきている。そのため、各企業は、中国での自社ブランドに対する認知度や企業イメージの向上を図るため、CSR(corporate social responsibility、企業の社会的責任)活動、いわゆる「社会貢献活動」に積極的に取り組むようになってきている。

現在、日本の上場企業の約6割以上が中国に進出し、これらの大手企業は、社会公益、社会福祉、技術教育、文化、スポーツ及び環境保全など様々な分野において「社会貢献活動」を行っており、特に教育への貢献活動が40%と大きな割合を占めているのが特徴である。

中国における日本企業の社会貢献活動の現状

「調和社会の建設」を国家テーマとして掲げている中国において、公に「社会的責任ある企業」と認められることは非常に重要である。なぜなら、良好な社会関係と権力党派からの承認は、企業発展に非常に有益となるからである。このため、日本の大手企業は「社会貢献活動」を中国市場における自社ブランドの知名度アップなどを行う最高の場とみなし、ここ数年、自社製品を利用した「社会貢献活動」を繰り広げている。

日本の大手企業の行っている活動の内容を簡単に紹介する。

①ソニー(株)

  • 大学生を対象に「ソニー電子設計コンテスト」を2年に1回実施し、延べ426の大学、40000人以上の大学生が参加)
  • 高校生を対象に「環境保全」をテーマとした日本での短期研修制度の実施
  • 貧困地域への学資支援
  • 芸術・文化交流活動(コンサートの開催など)

②本田(株)

  • 植林活動及び環境保護局に環境観察車の寄付
  • 華南水害多発地区への救援活動
  • ホンダ教育基金の設立など

③トヨタ(株)

  • 中国青年トヨタ環境保全支援プラグラム」の創設(毎年350万元、3年間で合計1050万元を提供)
  • 砂漠化防止に向けた緑化活動など

④キャノン(株)

  • 北京大学キャノン奨学金の設立
  • キャノン杯日本語スピーチコンテスト
  • キャノン希望小学校の建設
  • 聾唖児童のためのデジタル体験教室
  • チベット高原自然保護検証実録など

このほか、松下電器、日立、東芝、ダイキン、京セラ、オムロンなどの大手家電企業も奨学金の設立、身体障害者への支援など多種多様な方面においてCSR活動を展開し、自社製品の知名度の向上を実現するとともに民間レベルでの日中友好関係の推進に大きく貢献している。

中国における日本企業の社会貢献活動の問題点

日本企業の行っている社会貢献活動は好評を博している一方、中国の民衆にはまだまだ広く知らされていない。また一部の活動の結果では、予想した目的に及ばなかったことも指摘されている。これは、日中関係がこの数年間、一進一退の情況であり、政治的に微妙な一面があったこともその一因ではあるが、主な原因として以下のことが考えられる。

  1. 自己表現を遠慮しがちの日本企業が「よいことをするが、名前は残さない」ということを美徳 とするのに対して、欧米企業は社会貢献活動を行う前から、そしてその活動が終わってからもしばらくの間にわたってマスコミを利用して徹底的に自己宣伝をする。
    このように、同じ活動を行った場合、社会への影響・効果の面では、日本企業が非常に損をしているといえる。広大な中国において一地域での社会貢献活動の内容を、他より広い範囲に知らせることは、活動の効果をより高め、そして次なる社会貢献活動を行うためのよい下地となるといえる。
  2. 日本企業は現地の政府機関と提携する場合もあるが、ほとんど独自で社会貢献活動を展開することを好む。これに対して、欧米企業や中国企業は通常、現地のニーズにこたえるために有力パートナーと手を組んで一緒に行うことが多い。実際のところ、CSR活動の効果は協力パートナー、即ち現地の産業協会、NGO、NPO、マスコミなどの関わりの深さによって大きく変化する。中国における有効なCSR活動を行うためには、現地の有力機関とのパートナーシップは不可欠といえ、いかに現地のニーズを的確に捉え、活動を行うかが事後の評価を大きく左右するといえる。
  3. 日本企業は、本社と現地との間で、CSRに関する理念の共有、一貫性がなかったり、企業全体としての総合的な戦略に乏しい場合もあり、折角の社会貢献活動が、あまり社会的に認知されず、また、限られたエリアにおいて、数々の小規模な「支援」を繰り返すだけに留まってしまうこともある。
    これを解決するには、社会貢献活動の対象範囲を選択、集中し、かつ長期的な視野、いわゆる5年計画や10年計画というような長期計画により、中国社会に深く根を下ろすことを理念とした取組みが必要であろう。

2008年のオリンピックと2010年の上海万博を契機に中国経済は更に成長し、そしてその急成長によるビジネスチャンスの増加と市場拡大を狙う数多くの多国籍企業が今後、中国での社会貢献活動にいっそう積極的に取り組んでいくと思われる。
日本企業の社会貢献活動が、さらに中国社会で認められるためには、欧米企業の手法を学び、グローバル戦略のもとで、有力なパートナーと手をつなぎ、資金ではなく「資産への投資」という視点から中国社会へアプローチする活動が今後期待されている。

福島県上海事務所
仲  琪
2007年9月16日

                                       

参考資料:

  • 公益時報
  • 雑誌「経済」、「貫通日本語」
  • 21世紀中国総研

                                    

-->