上海市民の外貨運用について
- 投稿日:2007.02.02
- 003:上海地域アドバイザーレポート
この20年間の経済の発展に伴い、個人貿易、海外留学者・海外就職者の増加や華僑との繋がりなどによって、上海市民の個人資産における外貨資産の割合は大幅に増え、2006年6月までの統計によると、上海市民の外貨預金の総額は、すでに180億米ドルを突破し、全国の個人外貨預金総額の20%以上にも達しています。
このような情勢の中で、上海の商業銀行では外貨建て金融商品の開発に力を入れており、各商業銀行間の競争が激化しています。今回の経済レポートは上海市民の外貨運用事情について簡単に紹介したいと思います。
人民元が値上がりしている情勢の中でなぜ外貨運用が人気を得るのか?
上海は中国の中で最も金融業の発達している都市で、資産の運用対象は非常に豊富なはずです。2005年7月に人民元の対米ドル基準レートが切り上げ、変動相場制が実施されてから人民元は米ドルを始め主要国の通貨に対して絶えず上昇し、これまでに米ドルに対して約8%も上昇しました。今年も引き続き上昇の傾向になると推測されています。
このほか、人民元建ての上海A 株市場も絶好調の中で、外貨を人民元に替えて投資すれば高い収益を獲得できるのに対して、なぜ外貨建ての金融商品が売れているのか?その理由は次の3点が考えられます。
- 中国の外貨管理政策は一部緩和されていますが、まだ厳しい統制があります。外貨から人民元への兌換は自由ですが、人民元から外貨への兌換は年間5万ドルまでという制限があるため、海外留学、海外移民、海外投資などの計画がある市民は依然、外貨を持つ必要があるのです。
- 中国の株式市場の不確実性から、投資リスクと投資コストを総合的に考えれば高収益の外貨運用商品は依然、非常に魅力的です。
また人民元高による外貨資産の価値減少を相殺できるような外貨運用商品がどんどん開発されていることから、外貨をそのまま持っても大きな値下がりリスクは回避できるようになっています。 - 資産の多様化配置という見方もあります。個人資産を預金、債券、株式、ファンド、保険、外貨運用などいろんな分野に分散して持つ必要があると考える上海市民は数多く存在し、また人民元は今のところ、上昇していますが、そろそろ限界に来ており、値上がり率は10%を超えることはない、将来的にはもとの水準に戻ることもあるという考えもあることから外貨資産を効率的に運用することは、人民元レートの乱高下による為替リスクを回避できるという市民も少なくないのです。
上海の個人外貨資産の運用特徴について
現在、中国では個人で、外貨資産が投資できる対象範囲は下の表1に示されている通りです。
表1 中国(上海)の個人外貨資産の運用商品について
投資対象 | 株式市場 | 商業銀行 | 基金管理会社 |
商品種類 | 上海B株市場 深せんB株市場(ドル建て株式市場) |
外貨預金ストラクチャーノート商品 実勢為替レート取引商品 為替レートデリバティブ取引商品 外国為替証拠金取引 ゴールド取引 |
外貨建て投資ファンド |
表1に示されているように、上海の個人外貨資産の投資先は株式市場、銀行の金融商品、ファンドなど多種多様ですが、実際のところ、ほとんどの外貨運用対象は、銀行のストラクチャーノート商品であると言われています。
ストラクチャーノート(中国語では「結構性存款」)という言葉は、日本人には馴染みが薄いと思いますが、その定義を簡単に説明すると、投資者が銀行に外貨資産を運用してもらう「外貨投資信託」のことです。
ストラクチャーノート商品は本来、元本保証の有無やデリバティブ手法の有無から、いろいろなタイプのものがありますが、中国の場合は「銀行業監督管理委員会」という金融監督官庁の方針に従い、今のところ投資者の元本が必ず保障される「元本・収益保証型」と「元本保証・収益変動型」の2種類だけが認められています。
その仕組みは、銀行が個人投資者からドル資金(あるいはその他の外貨)を一定の期間内に集め、その集めた外貨資金を海外のアセットマネジメント会社、ヘッジファンドあるいは信託銀行に運用してもらい、銀行が収益を確保すると同時に投資者へも利益を還付するものです。ストラクチャーノートと外貨定期預金の相違点を表2に纏めました。
表2 ストラクチャーノートと外貨定期預金の相違点について
商品 | 最低預入れ金額 | 収益 | 解約の可否 | その他 |
ストラクチャーノート | 5000米ドルに相当する外貨 | 元本・収益保証型 3ヶ月(平均5%) ~6年(平均10%) 元本保証・収益変動型 20%の利息税なし |
基本的に不可(銀行によっては元本の5%に相当する手数料を払えば可能の場合もある) | 個人投資者のみ投資できる |
外貨定期 預金 |
10米ドルに相当する外貨 | 3ヶ月(一律2.75%)~2年(一律3.25%)
利息には20%の利息税が課税される |
いつでも手数料なしで解約できる (金利は普通預金として計上される) |
法人と個人両方預金できる |
表2の通り、ストラクチャーノートは、外貨定期預金に比べて流動性は劣りますが、収益性は遥かに優れ、特にストラクチャーノートは、預金ではありませんので、銀行法に定められている利息税が徴収されないため、実質収益は外貨定期預金の数倍になることもあるため外貨運用投資者からは絶大な人気となっています。
このほか、外貨建ての上海B株市場は、株式市場全体に占める流通量が小さい、特にA株市場(人民元建て株式市場)より収益率が悪いことから投資者に対する魅力は設立当初に比べてかなり衰えています。
外貨によるゴールド取引は、取引手数料が高い、知名度も不十分とのことからごく一部の投資者しか好まれていません。他方、基金管理会社の外貨建て投資ファンドに関しては今のところ、「華安基金管理有限公司」という1社だけが運営し、商品の種類も少ないためその魅力は限定的なものとなっております。
以上のような理由から、ストラクチャーノートが上海市民の外貨運用の主流となっているのです。
個人外貨運用商品に対する各商業銀行の取り組み
現在、上海の各商業銀行は、客層の特徴、戦略パートナーとして提携している海外の金融グループの資産運用の得意分野から、それぞれの投資者のニーズに合わせて商品の開発に力を入れています。
たとえば中国建設銀行、中国農業銀行、交通銀行は元本・収益保証型ストラクチャーノート商品の設計と開発に強みを持っています。5.2%(1年もの、2006年12月末時点データー)を超える高い収益率は高齢層の保守型投資者から絶大な支持得ています。
一方、中国銀行や中国工商銀行は元本保証・収益変動型ストラクチャーノート商品の開発力が高いと言われています。ハンセン指数、日経指数、LIBOR(ロンドン市場での銀行間で行われる短期の貸出金利)、ユーロ・ドル相場、香港やアメリカの株式市場に上場している個別銘柄など、各種金融指数とリンクするストラクチャーノート商品は上海市民から大変好評で、特に人民元高に伴い、アジア通貨バスケットの値上がり率と連動する商品は発売当日に売り切れとなることもあるようです。
最近では、ストラクチャーノート商品に対する投資ブームはますます高まっており、各銀行の金融商品運用セミナーは、最初の無料参加から予約ないし有料制となり、中には300元の参加料にもかかわらず、チケットが入手できない場合があるようです。
今後の動向について
WTOに加盟して以来、金融分野における中国の開放政策は着々と進み、個人向け金融商品の分野においても外資系金融機関は中国系の銀行と同じように商品を販売できるようになっています。
今のところ、外資系金融機関は営業ネットワークが少ない、知名度が低いなどの面から中国系の商業銀行より劣っていますが、これまでの高い商品開発力とリスク管理能力による高収益を実現する経験やノウハウを生かすことによって、上海市民に認知されれば中国系の商業銀行からシェアを奪える力は十分あると思われます。
これに加えて、今後金融緩和が進むとともに元本を保証しないハイリスク・ハイリターンの商品分野で強みを発揮すれば、上海市民の外貨運用のチャンスはますます多くなるに違いないと思われます。
参考資料:
- 「新華網」
- 「中金オンライン」
- 「第一理財網」
- 「FX168」
- 各商業銀行HP
仲 琪
2007年2月6日