上海に再来した日本留学ブーム
- 投稿日:2006.10.11
- 003:上海地域アドバイザーレポート
80年代の終わりごろから90年代の初めごろにかけて、日本政府の国際化政策によって、上海に日本留学ブームが起こり、数多くの上海人が日本の語学学校に入学し、当時の中曾根元総理大臣の掲げた「外国人留学生十万人計画」の実現に一役かいました。
その当時に、日本への留学は、他の国への留学に比べ遥かに人気があり、海外留学のトップ選択肢でしたが、その後は、日本のバブル経済の破綻や一部の中国人留学生による不祥事による留学ビザの引き締め、留学先の多様化などから90年代後半、日本への留学は一時期低迷していました。
日本留学ブームの再来
ところが2000年代に入り、日本企業の投資の増加や日本文化の影響で日本に憧れる上海の若者が増えてきています。
特に今年に入ってから、日本への留学ブームが高揚し、日本語教育を管理する日本の政府系組織である日本語教育振興協会の統計によると、2005年1年間の中国人学生による日本留学の申請件数は18600人にも及び、ビザを取得した人の割合も前年比35%以上も増加したと言います。
また、上海最大の国営の留学仲介機構である「上海市私用出入国サービスセンター・留学港」の資料によれば、今年の「1月入学者」、「4月入学者」、「7月入学者」は2005年同期に比べて、それぞれ58.5%、20%および34%増で、同「センター」の専門家によると、これは日本留学ブームの再来であり、今後もかなり長い時間に渡ってこのような増加傾向が続くだろうと予測しています。,/p>
ブームの原因
なぜ、日本への留学生の数が増えているのでしょうか?
一番大きな原因は、就職の機会と賃金にあるようです。
現在、上海市とその周辺には、5000社以上の日本企業が進出し、日本語が少しでも話せれば、同じ会社の中でもほかの従業員より給与が高くなるほか、昇進する可能性も高いのです。特にIT業界において、ソフトの開発者が日本語も出来れば、一般の人から見れば高嶺の花のような給与を手に入ることができるのです。このほか、営業や物流管理などの職種についても、日本語がある程度分かれば、中小のメーカーで管理職に登用されることもあります。
このような日本語能力イコール賃金プレミアムという動向の中で、日本の大学・短大、専門学校に留学し、学校を無事卒業した暁には、日本国内で対中ビジネスに携わる大手企業に就職できるほか、帰国して場合でも、日本の文化と社会事情にも通じているため、中国の大学を卒業した人々に比べて優位性があり、日本企業からも重要視されるのです。
日本文化への憧れ
このほか、日本のミュージック、アニメや漫画作品なども日本文化の追随者を数多く生み出し、実際に日本に行き、日本の文化を実際に肌で感じたいと考える10代、20代の若者の世代が急速に増えています。
筆者が最近、ある日本のミュージシャンの上海ライブで通訳を務めた時、日本のアーチストを熱狂に追いかける上海のファンに「日本に行きたいですか、観光だけですか、それとも留学をしたいのですか?」と聞いたところ、約半数以上の若者が留学をしたいと答えました。
これも去年から続いている日本留学ブームの特徴ともいえるでしょう。
変わる年齢層、目的
80年代90年代の留学生の平均年齢は、20代後半から30代前半でした。このため、日本語を勉強しても大学に受かる人は比較的少なく、またその当時、高い時給のアルバイトが簡単に見つかったことから「日本留学すなわち出稼ぎ」と言う誤解を招きました。
しかし、現在、日本への留学を希望する対象は、ほとんどが20歳前後の高卒者や大学の学生です。彼らは「ポスト85」、いわゆる1985年以降に生まれた20歳前後の者で裕福な家庭に育てられ、本当に日本語や日本文化を勉強するために留学する者が大多数を占めています。
それから修士課程で専門分野の勉強をするために、日本に渡る人も少なくありません。いわゆる昔と比べて、留学生の「質」と「目的」が変わってきたということです。というわけで最近、このことが留学ビザの許可率が高くなっている理由とも言われています。
日本留学ブームを支えるもうひとつの原因
中国の対外開放政策に基づいて、中国の学生が留学できる国はますます多くなってきています。上海の新聞を巡れば、数え切れないほどの海外留学の広告、特に欧米、オーストラリアの学生募集の広告が数多くある中で、なぜ日本への留学が人気を獲得できるのでしょうか。前述の原因以外に「上海市私用出入国サービスセンター・留学港」の専門家は次のように説明しています。
まず、日本への留学は敷居が低いと言うことです。
ビザの申請に当たって300万円の担保、また最近はそれに相当する人民元預金も担保できるようになり、この点についてはカナダ、米国に比べて、僅か半分以下の金額なので、負担が遥かに軽いことと。
語学力能力に関しても、TOEFLのような難しい試験がなく、入学の資格審査が欧米に比べて非常に簡単であることです。
次に、日本は留学生のアルバイトについて、法規制はあるもののすべてを禁止しているわけではありません。留学生のアルバイトが禁止されている欧米の国に比べてその優位性が明らかです。
三番目は、卒業後の就職がしやすいことです。これは先に紹介しましたので省略させていただきますが、最近では日本国内の大学を卒業した人が、日本のワーキングビザを以前より簡単に取得できるようになったようです。
「日本留学は自分の人生に対する挑戦であり、日本での留学生活は自立能力を大いに鍛えることができる」と同専門家が述べました。
上海の日本留学ブームは両国の経済、文化交流に伴い、これからも続きますが、他方、最近日本国内にも中国留学ブーム、上海留学ブームがあるようです。
一衣帯水の両国にとって、このような留学交流は両国間の友好にとって非常に有意義なことであると確信しています。
参考資料:
- 新民晩報」2006年7月30日B30版
- 「新民晩報」2006年8月20日B30版
- 中国経済サイト2006年7月27日記事
- 上海オンライン2006年3月9日記事
福島県上海事務所
仲 琪