中国が模索する経済発展方式の転換の行方(2)

  • 投稿日:2013.01.04
    • 005:華北地域アドバイザーレポート

3.内政面のキーワードは「改革」
 消費の拡大のためには、年金・医療といった社会保障サービスの整備により将来の不安要因を軽減していくことのほかに、労働分配率を高めて企業の付加価値の従業員への配分を増やしていくことも欠かせない。また、企業に対しては、減税や規制緩和を進め、成長に向けたインセンティブを高めていくことも欠かせない。
 こうした一連の改革は、個別対応では限界があるため、2012年12月7日から11日にかけて、習総書記は、広東省と深圳を訪問した際に、改革の系統性、全体性、協調性を重視するとともに、全面的な改革の深化に向けた制度設計と全体計画を作成しなければならないと強調している。同年12月15日から16日にかけて開催された党中央・国務院主催の中央経済工作会議でも、この改革プランの作成に着手することが機関決定されている。過去の新政権の取組みから類推すると、党大会から約一年後の2013年秋に開催されるものと思われる第三回中央委員会総会(いわゆる三中全会)に向けて、「改革」をキーワードとしたプランが作成されていくこととなろう。党大会閉幕直後の11月21日に開催された全国11の改革試験省・市の責任者を集めた会議でも、李副総理は「改革は中国にとって最大のボーナスである」と述べ、内政面で「改革」がキーワードになっていることが分かる。

 4.サービス業の振興に向けた取組み
 改革の全面プランは2013年秋の三中全会を待つとして、この間の経済発展方式の転換に向けた2015年までのサービス業の振興に向けた取り組みも並行して順次始まっている。

1)金融業の振興
 サービス業の中でも、一つ目は、金融業の振興である。2012年9月17日、国務院は、「金融業発展・改革の第12次5カ年計画」(以下、金融業振興計画)を公表した。金融業振興計画は、中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国保険監督管理委員会、国家外為管理局の金融5部門によって作成されてきたものである。
 金融業振興計画は計九章から構成され、中国の金融業が2015年までに達成すべき数値目標を二つ掲げている。一つ目は、同計画期間中の金融業のGDPに占める比率を5%前後以上にするというもので、二つ目は、一定期間内に実体経済が調達する社会融資規模に占める非金融機関の直接金融(株式、債券)の比率を2015年末時点で15%以上に高めるというものである。

2)サービス業全体の振興
 もう一つは、サービス業全体の振興である。2012年12月12日、国務院は、「サービス業発展の第12次5カ年計画」(以下、サービス業振興計画)を公表した。
 サービス業振興計画は計六章から構成され、中国のサービス業が2015年までに達成すべき数値目標を二つ掲げている。一つ目は、2015年末時点でのサービス業のGDPに対する比率を2010年比で4%高めるというものである。二つ目は、やはり2015年末時点でのサービス業従事者の全雇用に対する比率を2010年比で4%高めるというものである。うち前者について言えば、狭義のサービス業のGDPに対する比率が2000年の22.4%から2010年の27.3%へと約5%高まるまでに10年を経過していることを考えると(前掲図表2)、2010年からの5年間で、これまでの倍のスピードでサービス業を進行させる目標を設定していることを意味する。

3)注目される生活型サービス業の振興
 さらに、サービス業振興計画では、生産型サービス業、生活型サービス業、農村向けサービス業、海洋向けサービス業の四つの分野を重点的に発展させるとしている。
 うち生活型サービス業は、日中を問わず、日常的にもなじみの深い分野でもある。具体的には、①商業貿易サービス業、②文化産業、③旅行業、④健康サービス業、⑤法律サービス業、⑥家庭サービス業、⑦体育産業、⑧養老サービス業、⑨不動産業と、老若男女にとって、衣食住に余暇と身近なサービス業の振興が設定されている。
 同時に、サービス業振興計画は、サービス業の振興は市場を主体とした自主的な行為によって実施するとしながらも、各省(直轄市、自治区)政府が担当地域でのサービス業発展のための計画を作成し、関連政策を打ち出しつつ、中央レベルでも関係部門の役割分担を決め、業種ごとの指導意見を制定し、財政・税制、金融、土地、価格、交渉管理、質検等に関する措置を実施することを求めている。さらにサービス業振興計画の実施状況のモニタリングと評価は国家発展改革委員会が行い、国務院に報告することとしている。

5.結びにかえて
 サービス業の振興は、行政的手法のみで実現できるものではなく、消費者や市場のニーズに見合った需要を供給者が如何に作り出せるか、そのための環境整備やインセンティブを如何に確保・実現できるかにかかっていると言ってもよい。そうした行政機能の転換も、新政権による「改革」に向けた試みの一つだとすれば、第18回党大会を機に、壮大な取り組みが始まったと言っても良かろう。

以上 

2012年12月26日
福島県上海事務所 華北地域経済交流アドバイザー
関根 栄一

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