「福島の復興に向けて」

  • 投稿日:2012.01.05
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「福島県の復興に向けて」

平成24年1月1日

福島県知事 佐藤 雄平

 謹んで新年のごあいさつを申し上げます。

昨年の3月111446分。立つことさえままならないほどの大地震。美しい海岸線だけでなく多くの人々までをも一瞬にして飲み込んだ大津波。悪夢の一瞬一瞬が今でも脳裏から離れません。

この予期せぬ大震災により、無情にも犠牲になられた方々に対し、改めて哀悼の誠を捧げます。

さらに、福島県においては、大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故による想像を絶する被害が、美しいふるさとのみならず県民生活を一変させてしまいました。


年の門出にもかかわらず、心ならずも住み慣れた土地を離れ避難を余儀なくされている方々、住まいや働く場を失われた方々、そして、苦難に立ち向かい必死の
思いでふるさと福島を支えてくださっている方々、それぞれの大変な御労苦や御心労を思うと、胸が締め付けられる思いであります。

未曾有の大震災からまもなく300
を迎えようとしております。水道管が破損し、交通網や通信網が寸断され、ガソリンや食料品が供給不足になるなど、何が起こっているのかさえ十分に把握でき
なかった発災当時からすると、インフラや物流の復旧も順調に進んでおり、当初は厳しい環境にあった避難所も、避難者の皆さんの御努力、御協力によって仮設
住宅や借上げ賃貸住宅への入居がほぼ完了しております。

発災時から現在に至るまでの取組みは、大地震、大津波、それに伴う原子力災害、さらには風評被害のまさに四重苦との闘いでした。発災以来、240
以上に及ぶ災害対策本部員会議のほとんどが原子力災害への対応であり、避難者の支援を始め、被災施設等の復旧、放射性物質のモニタリングと公表、放射線量
の低減化対策、県民の健康管理、さらには、農産物や工業製品、観光などに対する風評被害などへの対応、原子力損害賠償への対応等、直面する課題に一つ一つ
丁寧に、誠心誠意を尽くし対応してまいりましたが、現在に至っても、新たな課題が次々と生じてきており、いまだに苦悩の日々が続いております。

また、昨年は、新潟・福島豪雨や台風15号にも見舞われ、会津、中通りを中心とした広い範囲で、鉄道や幹線道路の寸断や住家の浸水など甚大な被害が生じました。

天皇皇后両陛下をはじめ皇族の方々には、震災発生直後から被災者に思いをお寄せになり、避難所や被災地を訪れて温かい励ましをいただき、生活の先行きを不安に思う被災者にとって大きな心の支えとなりました。

さらには、国内外の多くの方々に、寄付金や義援金、支援物資の提供、避難住民の受入れやボランティアの派遣、避難所支援活動など、心温まる御支援をいただき、本県の復興に向けて大きな力をいただいたものと、改めて感謝申し上げます。

このような大変厳しい中にあっても、8月、開催そのものが危ぶまれた第35
全国高等学校総合文化祭を高校生の強い熱意によって成功させることができたことは、開催を境に、閉塞感に包まれていた福島県の空気が、復旧・復興に向けて
一変したと言っても過言ではないほど、県民に大きな勇気と希望を与えただけでなく、私自身にとっても最も心に残る出来事の一つとなりました。


りわけ、「福島の再生なくして日本の再生はない」と明言した野田内閣総理大臣の所信表明演説にも影響を与えた総合開会式における構成劇は、会場を埋め尽く
した観客にふるさと福島を大事に思い、福島の未来を切り開いていこうとする高校生たちの強い気持ちが伝わってくる極めて感動的なものでありました。

他にも、第64回全日本合唱コンクールでは安積黎明高校が、第78回NHK全国学校音楽コンクールと第50回全国学校合奏コンクールの二大会で郡山第二中学校が、第17回日本管楽合奏コンテストでは原町第一中学校が日本一になり、さらには、第41回全国中学校体育大会バドミントン競技では富岡町の生徒からなる猪苗代中学校が男女とも優勝するなど、文化やスポーツの分野における若い世代の活躍には、本県全体が勇気づけられました。


のような本県の未来を担う若者たちや、ふるさとに帰りたい気持ちを抑えながら避難生活に耐えている皆さん、様々な不安を抱えながらも懸命に地域のために努
力されている皆さん、全ての県民の願いに応えるため、一日も早い復旧・復興を成し遂げ、「明るく活力ある福島県」を全身全霊を傾けて築きあげる覚悟であり
ます。

【復興に向けた取組】


回の災害では、地域のきずなや人と人との支え合いの大切さが改めて認識されました。全ての県民が思いを共有しながら一丸となって復興を進めていくため、昨
年の8月に福島県復興ビジョンを策定し、県議会での審議、市町村や関係団体等との意見交換、県民の皆さんの御意見を十分踏まえて、福島県復興計画(第1
次)を1228日に策定いたしました。

その復興計画では、「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」という復興ビジョンの理念を踏まえ、「県内の原子力発電所を全基廃炉にすることを求める」ことを盛り込みました。

本年を福島県の「復興元年」と位置付け、本県の未来に灯りをともす羅針盤である復興計画に基づき、県民の皆様の力を結集し、復興に向けて全力で取り組んでまいります。

○安心して住み、暮らす

(環境回復プロジェクト)

県民の一刻も早いふるさとへの帰還と安心して生活できる環境の確保に向けて、県内全域における環境放射線モニタリングの充実・強化を図り、国や市町村と連携して除染を推進してまいります。

さらに、環境放射線モニタリング機能、調査研究機能、情報発信機能、教育研修機能を備えた拠点施設の整備に向けた検討や国内外の研究機関の誘致を進めてまいります。

(生活再建支援プロジェクト)


災者が安心して暮らすことができる環境を整備するため、仮設住宅等の環境整備、コミュニティの確保、高齢者等の交通安全対策や防犯対策、住まいに関する相
談窓口の設置、日常生活に近い快適空間づくり、二重ローン解消等を含めた持家住宅への支援や災害公営住宅の整備などの恒久的な住宅対策を進めていくととも
に、警戒区域等における立入規制及び警戒活動等を継続して実施してまいります。

また、県外での避難生活を続ける避難者等に対しては、受入都道府県の協力を得ながら多方面からサポートいたします。

さらに、雇用の維持・確保を図るため、地域の企業・事業者等が早期に事業再開できるよう多様な金融支援や補助、緊急雇用創出事業、企業誘致等を実施してまいります。

(県民の心身の健康を守るプロジェクト)


民の健康の保持・増進を図るため、「県民健康管理調査」により長期にわたり県民の健康をしっかりと見守るとともに、被災者や子どもの心のケア、疾病予防・
早期発見・早期治療に向けた取組みの強化、農林水産物、食品、飲料水等のモニタリング検査の強化、自家消費野菜等の検査体制の構築を進めてまいります。

また、医師や看護師等医療従事者の確保、地域医療提供体制の強化を図るとともに、放射線医学に関する最先端の診断・治療拠点の整備、放射線の影響に関する国際機関や国の機関との連携・協働を進め、全国にも誇れるような健康長寿県を目指します。

(未来を担う子ども・若者育成プロジェクト)

子どもの医療費の無料化について国への要請を強めるなど、その実現に取り組むとともに、地域ぐるみの子育て体制の充実等により子どもも親も安心して生活ができ、子育てがしたいと思えるような環境を整備いたします。

また、震災を踏まえた「ふくしま」ならではの教育を推進し、確かな学力、豊かな心、健やかな体をバランスよく育て生き抜く力を育む人づくりを進めるとともに、ふくしまの将来の産業を担う人づくりを進めます。

○ふるさとで働く

(農林水産業再生プロジェクト)

消費者へ安全・安心な農産物等を提供するために、生産者自らが放射性物質に関して安全性を確認できる検査体制の整備等を進め、これらの情報を分かりやすい形で伝える仕組みを構築してまいります。

さらに、本県の農林水産業の持つ力が最大限に発揮されるよう、生産基盤の整備を進めるとともに、新たな経営・生産方式の導入、木質バイオマス等新たな需要の喚起、地域産業の6次化による生産性の向上等を進めてまいります。

(中小企業等復興プロジェクト)

震災や風評被害により傷ついた地域経済の復興を図るため、被災企業等の再開支援、県産品の販売促進、製品の取引拡大の取組支援と企業誘致の促進等により、県内中小企業等の活力を取り戻し、新たな雇用の場と収入の確保を図ります。

(再生可能エネルギー推進プロジェクト)


生可能エネルギーについて導入拡大を図るとともに、最先端技術開発などを実施する研究開発拠点の整備、関連産業の集積・育成、スマートコミュニティ(快適
性、利便性を損わず、再生可能エネルギーを有効に利用し、エリア単位で社会のエネルギー効率化を図るシステム)等による再生可能エネルギーの地産地消の振
興により、原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくりを進めてまいります。

(医療関連産業集積プロジェクト)


療機器開発・安全評価拠点の整備、国際的先端医療機器の開発・実証など医療福祉機器産業の集積とふくしま医療産業振興拠点(創薬)の整備により、最先端の
放射線医学の研究や診断・治療技術の高度化などと関連した形で、我が国をリードする医療関連産業の集積を進めてまいります。

○まちをつくり、人とつながる

(ふくしま・きずなづくりプロジェクト)

県内におけるきずなづくりを進めるとともに、県外に避難されている皆さんの心がふくしまとつながり、ふるさとに帰還することができるよう、コミュニティ活動や地域づくり活動への支援、ふるさと情報や交流の場の提供などを実施してまいります。

(ふくしまの観光交流プロジェクト)

「新生ふくしま」を戦略的に情報発信するとともに、観光復興キャンペーン等の実施、国内外の会議や芸術文化・スポーツ等の大会・イベントの誘致・開催、福島空港を活用した広域的な交流の推進などにより、国内外から多くの観光客等が訪れるよう取り組んでまいります。

(津波被災地復興まちづくりプロジェクト)

海岸堤防の嵩上げ、防災緑地や道路の整備、土地利用の再編など、複数の手法を組み合わせた多重防御によるハード面の整備を始め、防災訓練の強化や防災リーダーの育成など、ソフト面の充実を図り、総合的な防災力が向上するまちづくりを進めます。

(県土連携軸・交流ネットワーク基盤強化プロジェクト)

浜通りの復興の基盤となる浜通り軸の早期復旧・整備と生活を支援する道路の整備、浜通りと中通りをつなぐ復興を支援する道路や東西連携道路など、災害に強い道路ネットワークの構築を図ります。

また、小名浜港、相馬港の早期復旧と機能強化及び福島空港の機能強化による本県の物流、観光の振興を支える基盤の整備、JR常磐線・只見線の早期復旧、災害時における情報通信手段の強化を進めてまいります。

原子力損害の確実、迅速な賠償は、復興への歩みを進める県民の皆さんの生活再建に極めて重要であります。今後とも、関係団体、市町村としっかり連携し、県内全域、全県民を対象に、全ての損害への十分な賠償を行うよう、国、東京電力に対し、強く求めてまいります。


た、国策で進められてきた原子力政策が引き起こした原発事故は、本県のあらゆる分野において、これまで経験したことがない甚大な被害を及ぼしています。本
県の復興・再生の要となり、特段の優遇措置を定める特別法の制定を国に対し要望してきた結果、現在、政府において「(仮称)福島復興再生特別措置法」とし
て、今月開会予定の通常国会への提出に向け作業が進められております。引き続き、県として早期制定を後押ししてまいりたいと考えております。

さらに、原発事故の収束に向けた工程表の「ステップ2」の達成に伴い、先月26日には、国から警戒区域や避難指示区域の見直しに係る考え方が示されました。今後、新たな区域の設定に当たっては、地元自治体や住民と丁寧に協議し、地元の理解と納得を得て進めるよう、国に対して強く求めてまいります。

中間貯蔵施設につきましては、先月28日、国から双葉郡内に整備したいとの考えが示されましたが、県としましては、まずは、関係自治体との協議を進めるなどしっかりと対応してまいります。

以上、復興に向けた主な取り組みについて申し上げました。

【結びに】

「福島に生まれて、福島で育って、福島で働いて、福島で結婚して、福島で子どもを産んで、福島で子どもを育てて、福島で孫を見て、福島でひ孫を見て、福島で最期を過ごす。それが私の夢なのです。あなたが福島を大好きになれば幸せです。」

「僕には、人命を救助する医師になる夢がある。福島に生まれ育ち、命の重さ、儚さに触れた自分だからこそできる事・・・父が身をもって教えてくれたように、人命は地球よりも重いものだから。」

前者は、第35回全国高等学校総合文化祭で披露された構成劇でのメッセージ、後者は、第33回少年の主張全国大会で内閣総理大臣賞を受賞した、いわき市の中学生の発表です。

未曾有の大震災の中にあっても、子どもたちはしっかりと将来の夢を胸に抱いています。復興に向け、県民が一丸となり直面する課題を一つ一つ解決していくことが、未来のふくしまを担う子どもたちに美しい福島県を取り戻し、引き継ぐことにつながると確信しております。

長く、苦しい道のりではあっても、福島県の復興、福島県づくりに、県民の皆様とともに誠心誠意取り組む覚悟であります。

子どもたちの明るい笑顔があふれる「新生ふくしま」の創造に全力で取り組むことをお誓いし、年頭のごあいさつといたします。

 

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